化 学 基 礎  第四講


4−4 ラボアジェ
 ここでは錬金術を完膚なきまでに否定してくれたフランスの化学者アントワーヌ=ローラン・ド・ラボアジェ(1743-1794)について紹介する。
 まずはその生い立ちというか経歴。
 1743年、フランスパリの裕福な家庭に生まれ、最初は家の伝統に従い法律を学び、弁護士試験に合格する。その後植物学を学んだのち、当時権威ある化学者に師事し、その時に書いた論文がフランスの学会で取り上げられ、1769年ラボアジェ25歳の時、フランス科学アカデミーの会員になる。
 その後、火薬公社の管理者に選出され、1771年に兵器廠内に自身の実験室を作った。ラボアジェはこの実験室で燃焼について実験や水の構造に関する研究を行い、1775年までにこの実験室で燃焼の原理を解明し、空気の成分を解析するなど、近代化学の礎を確立させた。
 そして1783年に、ラボアジェは燃焼の実験データを基にフロジストン説の反論を学会に発表、この当時としては非常に突飛な理論を学者数名が支持し、19世紀になって現代化学の理論が証明されるまでこの理論が(完全に証明されていないながらも)学会を支配した。
 さらにラボアジェはラプラスらと化学における新しい命名法を議論し、1787年にそれらをまとめた本を出版した。その本の内容によると、 酸素と金属の化合物は酸化物、非金属との化合物は酸、などが決められていた。
 1789年、「化学原論」を出版。これはいくつもの国で翻訳され、ヨーロッパ中に衝撃を与えた。ラボアジェは「化学概論」の中で33の元素を提唱し、その多くは現在の化学において元素であることが証明されている(現在の化学で元素ではないと証明されたものもある)。 また、質量保存の法則の概要についても「人の手によっても自然によっても、新たに何物かがつくりだされることはない。どんな過程においても、その始めと終りで物質の量は常に等しい。これは原理として成立する」と書いている。
 彼はこのように様々な発見をし、現代の化学に大きな貢献をしたため、「近代化学の父」と呼ばれる。

 最後にラボアジェの晩年について述べておく。
 ラボアジェは、裕福な家庭に生まれたにもかかわらず実験に多くの費用がかかることから市民から税を取り立てて国王に引き渡す「徴税請負人」の仕事をしていた。つまり市民から税を徴収していたのだが、このため、フランス革命勃発後の1794年に革命裁判にかけられ死刑を宣告されギロチンで処刑された。その光景を見ていた天文学者ラグランジュは「彼の頭を切り落とすのは一瞬だが、彼と同じ頭脳を持つ者が現れるには100年かかるだろう」と嘆いたと伝えられる。
 翌年、急進的に革命を推進していたジャコバン派(反政府過激派)が没落すると、ラボアジェの業績をたたえた胸像が作られ、後に盛大な葬儀が催された。 

 以下にラボアジェの主な研究を記す。

・元素の研究・・・水は土になるか?
 密閉したガラス容器に水をいれ、加熱して長時間(100日間)一定の温度(70〜80℃)に保つ。
 → 容器の底にかなりの量の「土」が生成したように見えた。(実際は、容器のガラス成分が溶出したもの)

 実験前後で容器全体の重さを測定すると、変化は0だった。
 → 変化があっても、質量は保存される。

 この実験は、目に見える現象の観察だけではなく、正確な測定によって初めて正しい理論が得られる、ことを示している。
 ちなみに、当時主流だった四元素論を信望する化学者たちは、この実験の結果のみを見て「水と火から土ができる」ことの証明だと考えたという。


・燃焼についての研究
 密閉した容器の中に一定量の空気と金属を入れて加熱すると金属の表面には金属灰の層が出来る(表面が燃える)。

(1) 加熱前後で、容器全体の質量を測定すると変化がなかった。
(2) 次に金属の質量を測ると、表面が金属灰になって質量が増加した。
(1),(2)より、質量を失った何かがあるはず。それは「空気」しか考えられない。
証拠:反応後、密閉容器をひらくと、空気が勢いよく入っていった。

 ラボアジェは様々な実験を行っている間に、「もし化学変化にあずかるすべての物質とすべての生成物を考えるならば、質量の変化は決して起こらない」と考え、「物質不滅の法則」=「質量保存の法則」にまとめた。

ラボアジェの説明・・・金属から金属灰に変化するのは、金属からフロギストンが失われるのではなく、金属に空気の一部が付け加わるため。(その後、その気体は「酸素」と名づけられた。)


 主な成果を以下に示す。

 1774年、質量保存の法則を証明。精密な定量実験の結果、化学反応の前後で質量が変化しない事を発見した。
 1777年、燃焼における酸素の役割を発見し、証明。フロギストン説を否定。
 1789年、『化学原論』を出版し、33個の元素を提唱。(現在では元素でないと証明されている物質を含む。)





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