ストレス状態の時、体内ではどのような変化が起こっているのでしょうか?
具体的に体内で起こっている反応を下に示します。
<ストレス状態の内訳>
ストレッサー |
↓刺激↓ |
汎適応症候群 |
視床下部
↓(分泌)
副腎皮質刺激放出因子ホルモン(CRH)
↓
下垂体
↓(分泌)
副腎刺激ホルモン(ACTH)
↓
副腎皮質系
↓(分泌)
コルチゾール:ストレスホルモン、緊急事態の信号
↓
運動系、自律神経系、ホルモン系、免疫系が働き出す。
大脳や脳幹でストレス状態を認知する。
免疫系と視床下部を制御し、ストレス反応が行き過ぎるのを抑える。 |
ストレス反応
ストレス対処 |
↓
例:不快に思う、震えがくる、気分転換にスポーツをやる |
ストレス病
(適応病) |
↓
例:頭痛、ストレス潰瘍、癌、(直接死亡するケースもある) |
ある程度強い刺激は私たちにとって異質なもの、普段は経験しない特異なものです。
この様に体が異常を感じた時、つまり私たちが刺激をストレッサーとして受けとった時、恒常機能が乱されます。
そこで体がストレッサーに対応しようとして視床下部 - 下垂体 - 副腎皮質系を介してホルモンが分泌されます。ホルモンは体内組織の働きに影響を与えます。
このとき血管系にも作用し、白血球を介して免疫力にも影響を及ぼします。
また、視床下部から自律神経系にも影響し、体の器官の働きを調節します。
この体内の変化を学術用語で「ストレス」というのです。
ここで重要なのは、どんなストレッサーに対しても、視床下部が命令を出すことです。その命令は刺激に適応して体をもとに戻す為に出されます。
いろいろな刺激が入ってきても、同じ刺激に対して捉え方が違っていても、「視床下部が適応の為に働くこと」に関しては常に変わりません。
この普遍的な働き、これを「非特異的」な働きというのですが、このような視床下部からの一定の適応命令による防御システムを「汎適応症候群」と呼び、汎適応症候群が起きている状態をストレス状態というのです。
適応命令が下された時、体には「ストレス反応」という形で現れます。これを裏返せば、ストレス反応はいわば脳や体が強い刺激に対してちゃんと対応していることの証といえるのです。
ストレス反応を呈してストレス状態になることで、ストレッサーに抵抗するというわけです。
それはちょうど、わざと熱を出して体の防御機構が働きやすい環境にし、風邪ウィルスと戦うのと似ています。ストレス反応はなくてはならない症状なのです。
逆を言えば、ストレス反応が現れた時は何らかの形でストレッサーが有害になりうる刺激を与えている時ということになります。
私たちはストレス反応の程度によって、ストレス状態が危険なほどひどいのか、そうでもないほどなのか判断することが出来るのです。
ストレス反応がひどくなってくれば、それを取り除かねばならないと思って対処行動をとるでしょう。しかしストレス反応が全くなければ、ストレス状態になっていることに気付かずにストレッサーを放って置くことになります。
もしストレッサーが悪い方向に働きつづければ、いつのまにか体がぼろぼろになってしまっているかもしれないのです。
ストレッサーは必ずしも悪いわけではありませんが、体にとって「異質」「非日常的」であることには変わりありません。従って、体の自己防衛能力だけでは手に負えきれないようなストレッサーがあった時、人は意識的に対処をして身を守る必要もあるのです。
その必要性を教えてくれるのがストレス反応なのです。
ストレス反応は、危険を伝える「メッセンジャー」なのです。
用語説明
特異
←→非特異
他のものと非常に異なっていること。特殊なこと。
[参考]→特異性
特異性 英specificity 仏spe'cificite' 独Spezifita:t
特殊な性質。
恒常機能、恒常性
=ホメオスタシス
ホメオスタシス 英homeostasis 仏home'ostasie 独Homo:ostase
恒常性。
外部環境(天気や気温など)の変化や内的変化(運動や姿勢など)に応じて、生物体または生物システムが形態的状態・生理的状態体内環境(内部環境internal environmentとも言う。体温、血流量など)を安定な範囲内に保ち、固体としての生存を維持する性質。
ヒトでは自律神経と内分泌腺が主体となって行われる。精神内部のバランスについても言う。
視床下部 英仏hypothalamus 独Hypothalamus
脳の中の間脳の一部で、自律神経系の高次中枢。自律機能の調節・統合をし、体温調節・血圧・生殖・消化機能・睡眠・物質代謝などの調節を司る。
また、(脳)下垂体に連なってこれを支配し、内外の刺激に応じて内分泌の制御をする。
さらに視床下部は情動(emotion)表現の中心とみなされている。視床下部は基本的な生理現象を営むのに最も重要な部位となっている。
下垂体 英hypophysis、pituitary body、pituitary gland 仏hypophyse 独Hypophyse
=脳下垂体(hypophysis cerebri)
間脳底から垂れ下がって、神経系と内分泌系との連接部となっている。
成長ホルモン、生殖腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモンが分泌され、視床下部で作られた抗利尿ホルモン、子宮筋収縮ホルモンなどが貯えられて分泌される。
副腎皮質 英adrenal cortex 仏cortico-surre'nale 独Nerbennierenrinde
副腎の外層部分で、内分泌腺組織である。副腎皮質ホルモンを分泌する。
自律神経系 英autonomic nervous system 仏syste`me nerveux autonome 独autonomes Nervensystem
=不随意神経系(involuntary nervous system)
交感神経系・副交感神経系(parasympathetic nervous system)の2系統を持つ、意識から独立して生体の機能を調節する神経。その中枢は脊髄と脳幹にあり、血管・胃腸・唾液腺・肝臓・心臓などの器官を支配する。
交感神経系 英nervus sympathicus sympathetic nerve 仏nerf sympathique 独Sympathikus
自律機能を調節する神経で、一般的に生体を活動的にする。末梢は血管・皮膚・汗腺・内臓平滑筋・分泌腺などに広く分布する。
[参考]→自律神経系
器官 英organ 仏organe 独Organ
生物体を構成し、独立的に一定の生理作用を行う部分。
例えば、心臓、胃。動物では、神経系(nervous system)・感覚系(sense system)・筋肉系(muscle system)・骨格系(skeletal system)・消化系(digestive system)・呼吸系(respiratory system)・循環系(circulatory system)・排出系(excretory system)・生殖系(reproductive system)・内分泌系(endocrine system)・外被系(integument system)がこれに相当する。
末梢 英peripheral
[参考]→ 末梢神経系
はし。先端。末端。
末梢神経系 英peripheral nervous system 仏syste'me nerveux pe'riphe'rique 独peripher(isch)es Nervensystem
中枢神経系と諸器官(皮膚・感覚器官・筋肉・腺など)とを連絡する神経の総称。脳から出る脳神経と、脊髄から出る脊髄神経の二つがある。
機能上により、遠心性神経と求心性神経とが区別され、また運動神経・知覚神経・自律神経の別がある。
[参考文献]
広辞苑 第四版 岩波書店 新村 出・編 1991.11.15 第四版
講談社国語辞典 第二版 講談社 1991.11.5 第二版
岩波生物学辞典 第4版 八杉龍一、小関治男、古谷雅樹、日高敏隆・編 1996.3.21 第4版
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