電気
前600年ころにギリシアのタレスは,コハクを摩擦するとちりなどの軽いものを引きつける性質が現れることを発見したと伝えられている。これは今でいう摩擦電気であるが、コハクのギリシア語エレクトロンを語源として、英詰の電気を意味するエレクトリシティelectricityが生まれたといわれている。しかし、この時代には電気的な力と磁石の力との区別は明確に認識されてはいなかったらしい。電気現象と磁気現象との区別を確立したのは、16世紀のイタリア人カルダノといわれている。イギリスの医師ギルバートWilliam Gilbert(1540〜1603)はいろいろな物質を摩擦して、これらがコハク同様軽いものを引きつけることを発見し、さらにカルダノによって確立された電気現象と磁気現象との区別を確認して、電気およぴ磁気学の基礎をつくった。彼は、摩擦された物体からは、エフルービアeffluviaと呼ばれる微粒子からなるきわめて希薄なふんいきが周囲に発散され、このエフルービアはそれを放出した物体のほうヘもどろうとする傾向をもつため、もどるときに途中にある軽い物体を引き寄せるのであると考えて、電気的な力の説明を試みている。〔電場〕
電荷が力を受ける場所を電場という。電場のうち時問的に変化しないものを静電場という。一つの電荷のそばに他の電荷をもってくると、クーロンの法則に従って初めの電荷によって力を受ける。すなわち初めの電荷の周囲には電場が形成されている。電場はべクトルで表されるが、一つの電荷が存在する場合の電場の強さEは,電荷からの距離だけの関数で表され,電荷の大きさをqク―ロン、距離をγmとすると,E=q/4×円周率×真空の誘電率×γの2乗〔V/m〕(mksa単位系)で与えられる。一つの電荷だけではなく、多数の電荷(ただしi=1、2、……)が存在するときには、これらの個々の電荷による電場をべクトルの加法に従って加え合わせたものが全体の電場となる。電荷の存在する空間に閉じた曲面を考え、その表面に沿って電場の外向き法線成分を加え含わせたものは、その曲面で囲まれた内部に存在する電荷の和に比例する。〔電流〕
電荷の流れを電流という。1秒問に1クーロンの電荷が流れる電流の強さが1Aである。金属では金属中の電子が移動して電荷を運び、電池や液体の中ではイオンによって運ばれる。また塩化ナトリウムなどのイオン結品中でもイオンが電流の担い手となるが、金属に比ベると電気抵抗の値は大きい。電流が物質中を流れるとき、電流の運び手である電子やイオンは、物質中の振動している原子や他のイオンなどと衝突してエネルギーを失い、その結果物質は発熱する。これがジュール熱であり、その発熱量はジュールの法則で与えられる。液体中に電流を流すと、液体中の正のイオンは電流の方向に移動し、負のイオンはそれと反対の方向に移動するので、このことを利用して液体の成分を分けることができる。これが電気分解の原理である。〔電流と磁場〕
電気と磁気との間に密接な関係があることを最初に示したのはエルステッドである。彼は電流のそぱにもっていった磁針が振れることを発見したのであるが、これは電流が磁場をつくるために起こるのである。直線電流が流れているとき、その周囲につくられる磁場は電流を取り巻く同心円状になる。磁場の方向と電流の方向の関係は、右ねじを回す方向とねじの進む方向の関係と同じで、これをアンぺールの規則、あるいは右ねじの法則という。また直線電流の強さをIとすると、電流からrの距離の点における磁場の強さHは、H=I/2(円周率)r(mksa単位系)で与えられる。磁場は直線電流ばかりでなく、一般の形状の電流によってもつくられる。各点の磁場は、電流の短い一部分がつくる部分磁場をべクトル的に加え合わせたものになっており、この部分磁場の大きさはビオ・サバ−ルの法則で与えられる。たとえぱ電流Iが半径aの円形状に流れているときには、磁場は電流の輪をくぐるようにでき、円の中心における磁場の強さをHとすると,H=I/2a(mksa単位系)である。