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電気

前600年ころにギリシアのタレスは,コハクを摩擦するとちりなどの軽いものを引きつける性質が現れることを発見したと伝えられている。これは今でいう摩擦電気であるが、コハクのギリシア語エレクトロンを語源として、英詰の電気を意味するエレクトリシティelectricityが生まれたといわれている。しかし、この時代には電気的な力と磁石の力との区別は明確に認識されてはいなかったらしい。電気現象と磁気現象との区別を確立したのは、16世紀のイタリア人カルダノといわれている。イギリスの医師ギルバートWilliam Gilbert(1540〜1603)はいろいろな物質を摩擦して、これらがコハク同様軽いものを引きつけることを発見し、さらにカルダノによって確立された電気現象と磁気現象との区別を確認して、電気およぴ磁気学の基礎をつくった。彼は、摩擦された物体からは、エフルービアeffluviaと呼ばれる微粒子からなるきわめて希薄なふんいきが周囲に発散され、このエフルービアはそれを放出した物体のほうヘもどろうとする傾向をもつため、もどるときに途中にある軽い物体を引き寄せるのであると考えて、電気的な力の説明を試みている。
電気についての系統的な研究が行われるようになったのは18世紀に入ってからで、電気は流動しうるものであること、物質には電気の導体と不良導体があることなどが認識されるようになった。またフランスのデュ・フェーCharles Francois Du Fay(1698〜1739)は電気には2種類のものがあることを発見し、正負の2檀頬の電気に対応した2種類の電気流体を仮定することによって電気現象を説明しようとした(ニ流体説)。これに対しアメリカのB.フランクリンはただ1種の電気流体を仮定し、これがある標準以上にあれぱ正、標準以下になれば負の電気をもつようになると考えた(一流体説)。このほか1785年にはクーロンによって、電気をもった物体間に働く力が物体間の距離の2乗に逆比例するといううクーロンの法則が発見されている。
電気学の新しい展開は1800年ボルタによって電池が発明されたことに始まる。すなわちこれによって連続的な電気の流れ、電流が得られるようになったからである。20年エルステッドは電流が流れるとそばに置いた磁針が振れることを発見し、さらに31年ファラデーが電磁誘導を発見したことによって、電気と磁気との間には密接な関係があることが明らかにされた。またファラデーは電気現象、磁気現象を説明するために電場、磁場という場の考え方を提案したが、この考え方はその後マクスウェルに受け継がれ、64年マクスウェルの方程式と呼ばれる電磁気学の基礎方程式にまとめられた。マクスウェルはこの方程式を用いて電場、磁場が波動となって光の速度で進むことを導いた。この波動は電磁波と呼ぱれ、マクスウェルの死後9年を経た88年H.ヘルツによってその実在が証明された。19世紀末には原子論も発展し、電子、陽子などの存在が確立し、電気の実体が明らかにされた。すなわち電気現象の根底にあるのは電荷であり、この電荷は電子、陽子などの素粒子の固有の性質なのである。
20世紀は電磁気学の大規模な応用の時代であり、1904年にJ.A.フレミングが真空管を発明して以後、エレクトロニクスが飛躍的に発展し始めた。

〔電場〕

電荷が力を受ける場所を電場という。電場のうち時問的に変化しないものを静電場という。一つの電荷のそばに他の電荷をもってくると、クーロンの法則に従って初めの電荷によって力を受ける。すなわち初めの電荷の周囲には電場が形成されている。電場はべクトルで表されるが、一つの電荷が存在する場合の電場の強さEは,電荷からの距離だけの関数で表され,電荷の大きさをqク―ロン、距離をγmとすると,E=q/4×円周率×真空の誘電率×γの2乗〔V/m〕(mksa単位系)で与えられる。一つの電荷だけではなく、多数の電荷(ただしi=1、2、……)が存在するときには、これらの個々の電荷による電場をべクトルの加法に従って加え合わせたものが全体の電場となる。電荷の存在する空間に閉じた曲面を考え、その表面に沿って電場の外向き法線成分を加え含わせたものは、その曲面で囲まれた内部に存在する電荷の和に比例する。
電場中で電荷を動かすには、電場による力に抗して仕事をしなければならない。したがって電場中には位置のエネルギ―が蓄えられていると考えることができる。単位の正電荷をA点からB点まで動かすのに必要な仕事をAB間の電位差という。電位差は電池の両極の間や、電流の流れている抵抗の両端の間にもあり、したがってこれらの周囲にも電場が形成されている。

〔電流〕

電荷の流れを電流という。1秒問に1クーロンの電荷が流れる電流の強さが1Aである。金属では金属中の電子が移動して電荷を運び、電池や液体の中ではイオンによって運ばれる。また塩化ナトリウムなどのイオン結品中でもイオンが電流の担い手となるが、金属に比ベると電気抵抗の値は大きい。電流が物質中を流れるとき、電流の運び手である電子やイオンは、物質中の振動している原子や他のイオンなどと衝突してエネルギーを失い、その結果物質は発熱する。これがジュール熱であり、その発熱量はジュールの法則で与えられる。液体中に電流を流すと、液体中の正のイオンは電流の方向に移動し、負のイオンはそれと反対の方向に移動するので、このことを利用して液体の成分を分けることができる。これが電気分解の原理である。

〔電流と磁場〕

電気と磁気との間に密接な関係があることを最初に示したのはエルステッドである。彼は電流のそぱにもっていった磁針が振れることを発見したのであるが、これは電流が磁場をつくるために起こるのである。直線電流が流れているとき、その周囲につくられる磁場は電流を取り巻く同心円状になる。磁場の方向と電流の方向の関係は、右ねじを回す方向とねじの進む方向の関係と同じで、これをアンぺールの規則、あるいは右ねじの法則という。また直線電流の強さをIとすると、電流からrの距離の点における磁場の強さHは、H=I/2(円周率)r(mksa単位系)で与えられる。磁場は直線電流ばかりでなく、一般の形状の電流によってもつくられる。各点の磁場は、電流の短い一部分がつくる部分磁場をべクトル的に加え合わせたものになっており、この部分磁場の大きさはビオ・サバ−ルの法則で与えられる。たとえぱ電流Iが半径aの円形状に流れているときには、磁場は電流の輪をくぐるようにでき、円の中心における磁場の強さをHとすると,H=I/2a(mksa単位系)である。
このように電流が流れると磁場ができるが、一方、他の磁石や電流がつくっている磁場の中の導線に電流が流れると、その導線は磁場によって力を受ける。一様な磁場の中に直線電流が流れている場合、電流に働くカは、磁場と電流のつくる平面に直角で、その向きは左手の人差指を磁場の方向に、中指を電流の方向に向け、これらに直角に親指を開いたときの方向と一致する(フレミングの左手の法則)。また電流の長さlの部分に働く力の大きさFは、磁気誘導の大きさをB、電流と磁場のなす角をβとすると、F=Blsinβである。
閉じた回路のそばに棒磁石を静止させておき、次にこの磁石を急激に動かすと、磁石が動いている間は回路に電流が流れる。この現象はファラデーによって発見されたもので電磁誘導と呼ばれ、またその電流を誘導電流という。磁石のつくる磁場が変化したときに、回路に起電力が現れる現象である。一様な磁場の中に閉じた回路があってその面積がSであるとし、面の法線と磁気誘導(大きさβ)のつくる角をβとしたとき,磁束=BScosβをこの回路を貫く磁束というが、回路に現れる起電力Eの大きさはこの磁束の時間変化に比例し、E=−d×磁束/dt(ただしtは時間)で表される。負の符号は、起電力の向きが磁束の変化を妨げるような電流を流す向きであることを示している。