五行説は空間及び時間の双方を表記する概念で、陰陽説から派生した。
古代中国人が 視点を天に移してから、博士達は、大宇宙を更に仔細に観察しはじめた。
彼等は、陰陽交合によって、天界には太陽と月(太陰)が生まれ、更に木星、火星、土星、金 星、水星の五惑星をはじめ、諸々の星が誕生したとした。
太陽は「陽」の気の集ま り、月は陰の気の集まりであるから、天上界が描かれる時、太陽は東、月は西を正位置とし、星は中央を占める事となる。
一方、地上には、五元素「木火土金水」、五原色「青赤黄白黒」、五季節「春夏土用秋冬」(土用とは各季節の始まりの18日間に当たる)、北斗、南斗両星座の位置から五方位「東南中央西北」が設定された。
これらに共通する「五」という数字は、言わずと知れたヤモリの変色に由来する。
(詳しくは陰陽説参照の事)
五行の「行」とは廻り回る(めぐりめぐる)と言う意味である。
つまり、五行説とは「木火土金水」の五気がこの順序で回りつつ相互に影響しあうという原理なのである。
以上で五行それぞれの根本的な配当は定まったが、各行同士の相関関係がまだはっ きりしない。それを説明する為に生まれた理論がある。
それが五行相生相剋である。
古代中国戦国時代から漢の時代にかけて、様々な理論が 徐々に作られていったらしい。
その中で最も有力な五行相関説は、戦国時代(紀元前三世紀頃)の思想家によるものと言われる「相剋説」と、前漢時代(紀元前二世紀頃)の儒家のものと言われる「相生説」で、それ以後の五行理論の基となり、あらゆ る分野で用いられるようになった。
それらを簡単に説明しよう。
以下の現象を「相生」という。五行が対立することなく、順次発生していく様を説 明する理論として生み出されたものである。
原理は至って簡単・単純で、木火土金水の順で、五元素が順送りに相手を生じていくという事である。
「木生火」・・・・・・木は摩擦により火気を生ず る。
「火生土」・・・・・・火は燃焼する事によって灰 (土)を生ずる。
「土生金」・・・・・・土は金属を埋蔵している。
「金生水」・・・・・・金属は表面に水気を生ずる。
「水生木」・・・・・・水が植物(木)を育む。
相生説は春夏秋冬の四季の循環に土を加えたものなのだそうだ。
その中で、特定の四季を司らない土を抜くと
「春(陽中の陰)→夏(陽中の陽)→秋(陰中の陽)→冬
(陰中の陰)」
という陰陽循環が現れる。
これを象ったものが、易の「太極図」である。
また、その反面、五行同士が相互に反発しあうのも自然の理であるとする理論も存在する。
以下の現象を「相剋」という。ちなみに、成立が古いのは相剋説のほうである。こちらの原理も至って簡単・単純なもので、木火土金水の順で、五元素が順送り に相手を剋(殺)していくという事である。
「木剋土」・・・・・・木は土中の栄養を奪う。
「土剋水」・・・・・・土は水の流れを塞き止める。
「水剋火」・・・・・・水は火を消す。 「火剋金」・・・・・・金属は火に溶ける。
「金剋木」・・・・・・金(斧など)は木を切り倒す。
この説は、「水=冬/北(陰中の陰);火=夏/南(陽中の陽)」と、「木=春/東 (陽中の陰);金=秋/西(陰中の陽)」という対立軸を十字に交差させる事によっ て成り立っている。
そこに、「土」を入れる事により、より複雑な相関関係が生まれ る仕組になっている。
ただ、生の中にも剋はある。
樹木が燃焼する事によって確かに土は生まれるが、燃え続ければ森は滅びる。
また、剋の中にも生はある。
金属(斧)によって切り倒された樹木も、家や様々な道具へと姿を変えて再生する。
宇宙の森羅万象は、「陽」の面 のみで活動し続ければ無理がたたって歪みが生じる。歪みを生じさせない為には、必 ず「陰」の要素も、存在として、必要なものなのである。
木火土金水は宇宙森羅万象のシンボルであるので、そこに相生・相剋の二説が考え出されるのは扱く当然の事なのである。
つまり、相生・相剋の二面があってはじめて、万象はスムーズな循環が得 られ、この五行によってはじめて、万象の永遠性が確保されるというわけである。
そして、これら自然界の栄枯盛衰を、人間界の吉凶・運命に投影しようとする様になるのは、当然の事と言える。
自然界の仕組みから推測して、未来で起こる災いを予知
し、予め回避できうるとしたら素晴らしいではないか。
この相生・相剋説の登場に よって、ここから陰陽道が用いた占術の数々が誕生するのである。