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大鏡 六十五代 花山院
現代語訳



安部晴明、帝の退位を感知す
つちみかど だいだいり じょうとう
 そうして粟田殿が土御門大路へ出る大内裏上東 門か
 
ら東の方へ帝をお連れ出しになった時に安倍晴明の家の前
 
を通りかかると、仰々しく手を打ち鳴らして 「帝がご退位なさ
 
れると思われる異変が天に現れたが、もはや事は決ってし
  さんだい そうじょう
まったように見える。 参内 してこの事を 奏上 しなければ。
 
すぐに牛車の支度をせよ」 と言う晴明の声が聞こえました。
 
その声をお聞きになった帝のお心は、お覚悟の上とは言
 
え、さぞや感慨無量でいらっしゃいました事でしょう。 「さしあ
 
たって式神一人宮中へ参上せよ」 と晴明が命じますと、人
 
の目には見えぬ何者かが、戸を押し開けて、帝のお後ろ姿
 
を拝見したのでしょうか 「ただ今ここをお通りになって行か
 
れるようです」 と答えたそうです。晴明の家は土御門大路北
 

町小路西にありますから、ちょうど帝のお通りになる御道筋

 

であったのです。

花山天皇出家