もう冬も近く、矢作川にはカモの群れが舞い降りている。  橋の下で、五、六人の物乞いが火を焚いて、寒さをしのんでいた。 そこへ、1人の少年が土手から下りてくると、
「よう、寒うていかんでよ。おらも火に当たらしてちょ。」
「おみゃあ、どこの山から来た猿だぁ。」
「ほれ、あそこに見えとる山だぎゃ。山の木もすっかり実が落ちてよ、 人里で飢えをしのごうと、この辺まで下りてきたんだわ。」
 猿と呼ばれた少年は、調子を合わせている。ぱちくり目玉で、顎が ほっそりと痩せて、なるほど猿そっくりだ。
「こう戦が続いちゃあ、人里だって不景気なもんだで。おら達みてゃあに 、食えんやつがごろんごろんしとるでよう。」
 物乞いの一人がぼやくと、その少年は、
「まあ腹を減らして、せめて火にあたりよってちょ。いずれ、おらが 天下を取って、この乱世を救ってやるでよ。」
「ははは、猿に天下を取られちゃあ、人の世もおしみゃあだで。」
 天分二十年というから、一五五一年は霜月(十一月)のことである。 世はまさに戦国時代、城を取ったり首を取ったりの戦さが、もう百年も 続いている。


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