「やあ、小六殿が、またお猿さんを連れて来られたわ。」
「お猿さん。こっちへ来て、おいしい栗をお食べ。」
生駒屋の娘二人が大喜びで、縁側から栗を投げてよこす。
藤吉郎は前歯で栗の皮を剥き、猿そっくりにポリポリと食べてみせる。
「あ、はははは。」
「おもしれえ猿だがや。はははは。」
娘達も、使用人達も、腹を抱えて笑いこけている。
その時である。一人の武士が、奥の部屋から出てきた。茶筌結びの髪に
赤い糸を巻きたて、小袖に縄の帯を締め、太刀をぶち込んだ腰には、
ひょうたんやら火打ち袋やら竹筒やらぶら下げている。
(ありゃあ、また、何たる格好だ。)
と、見とれている藤吉郎たちを気にも留めず、さっさと庭を横切り、
表に踏み出す。その後を追っかけるように見送りに出たのが、生駒屋の
長女、吉乃様だ。
「吉乃様。あの侍は、どこの御仁でござる?」
戻ってきた吉乃に、小六が尋ねる。
「清洲の殿に御座います。」
「おお、あの御仁が、織田信長殿で御座ったか。」

![]() | 「やはり、信長殿は噂通りのうつけものだ。」 |
![]() | 急いで、信長を追いかける。 |