「わしが思うには、悟りをひらいた人間は、外見では馬鹿と見分けがつかなくなるものじゃ。 信長様は、馬鹿だとしたら大馬鹿で、偉いとしたら、ものすごく偉いのだろうよ。」
と、こうなったらやけっぱちだ。
「偉いと見て、生駒屋からここまで走りつづけたが、大馬鹿の殿様だったわい。わしも 大馬鹿だったわい。さあ、斬りやがれっ。」
「おう斬ってやろう、首を出せっ。」
 藤吉郎の耳元で、刀がヒュッと風を切った。首はつながったままである。

「口の減らぬ猿め。ええい、望み通り使ってやるわい!」
 とたんに藤吉郎、ぱっと顔を輝かせ、
「ただいまこの藤吉郎の命は、信長様がお召しになられました。 しからば、どのようなことでもお命じ下さいませ。」
「名は藤吉郎と申すか。」
と、信長が穏やかな声に戻り、
「足軽大将の、浅野又右衛門を訪ねてゆけ。馬の世話でもするがよい。」
 そう告げたものである。

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