かくして藤吉郎、清洲城で馬の世話に明け暮れするうちに、まる2年が過ぎた。
武家につかえているうちに、尾張なまりもすっかり消えた。
暖かい清洲にも珍しく小雪のちらつく朝、藤吉郎が長屋の戸を開けると、
「あら藤吉郎さん、早いのね。」
かわいい少女が笑いかけた。表を竹ぼうきで掃除していたのは浅野又右衛門の娘で、
名前までかわいい寧寧だ。
「やあ、おはよう。よい子の寧寧どの。」
「また今日も、馬屋へお出かけ?」
「馬の世話は、もうお役ご免となりました。喜んで下され寧寧どの。
この度藤吉郎は、信長様の草履取りに出世致しました。」
「まあ、草履取りがどうして出世なの?」
「馬の世話から人間の世話になったのだから、これは出世でござろう。」
「はははは、それもそうだわね。」
「猿っ。そちは明日から、わしの草履を取れ。」
信長にそう命じられたとき、
(しめた!1日中殿のそばにくっついていれば、わが才覚を認めてもらいやすいというものだ。)
藤吉郎はもう、すこぶる喜んだ。
