「ほう、それはどうして。」
織田家では筆頭家老の柴田勝家がたずね返したけれど、
(武道を心得ぬわしに、どっちが有利か分かるもんかい。)
何にも考えもしないで、槍の達人が言うことを頭から信じてしまう奴がしゃくにさわるから、それこそ横槍を入れたまでだ。
「説明するまでもない。実際に戦ってみれば明らかだろうよ。」
藤吉郎がうそぶく。
「よろしい。では、そのほうは長い槍を持て。短い槍のそれがしと、勝負をいたそうではないか。」
片桐孫四郎が、鋭い目つきでにらみ返す。おのれ、わしはものすごく腹を立てたぞ、と顔に書いてある。
「一対一の勝負にすりかえて貰っては、困るなあ。戦のおりに、どっちが有利かという話でござったろう。戦は集団でやるもんだ。」
「猿っ、口を慎め!」
怒鳴りつけたのは信長である。藤吉郎は未だに苗字もない身分であり、あとの者はみな武士なのだ。いかになんでも口が過ぎる。
「よし、孫四郎と藤吉郎に五十人ずつの足軽を授ける。五日のちに長短槍試合で勝敗を決するがよい。」
ということになった。
