藤吉郎、五十人の足軽を二組に分けると、
「いいか。おまえ達二十五人は、その長い槍を上下に振って、めたらやったに
頭をぶん殴れ。」
「へい、合点です!」
足軽たちが手にしているのは、穂先を布でくるんだタンポ槍だ。
「そして、後のおまえ達は、ひたすら左右に振って足やら腰やらぶったたけ。」
「へい、合点です!」
わぁーっと、双方が攻めかかる。

孫四郎の組は突きの一手だ。短い槍だから、突いたところでとどくものか。
上下左右に振り回す長い槍で、こてんぱんにやられてしまった。
「ええい、槍の使い方も知らぬ奴に、負けてしまったわい!」
片桐孫四郎、歯が焼けるほど悔しがったけれど、そもそも槍に使い方
などあるものか。槍は突くだけという考え方に取り付かれていては、
それこそ一本槍ではないか。武器など、勝てるように使えばいいのだ。
「名人や達人ばかりで戦さをするわけではござるまい。これからの戦さは
個人の武術を集団の武術に脱皮させることが肝要でござる。」
得意満面の藤吉郎、見物していた織田家の武将らに一席ぶっている。
「一人一人の技が如何に優れていても、まとまった集団の動きには勝てぬ。
昔の合戦のやり方にしがみついていては・・・・・」
「猿っ、もうよい!」
信長がおしゃべりを制した。ついで、
「藤吉郎。その方に足軽大将を命ずる。」
とんとん拍子の出世の、これが第一歩である。