卯の花の匂いも漂う初夏となる。
 清洲の町では、それに加えて戦さの匂いまで漂い始めた。駿府の 今川義元が、ついに上洛戦の火ぶたを切ったのだ。上洛戦とは、京都を 目指すための戦さだと思えばよろしい。
 京都の足利将軍は、今では力が衰えてしまい、あまたの戦国大名が それにとって代わろうとしていた。そうした北条や武田や上杉を差し置いて、
「わしが天下を治めなくて、どうするか。」
 真っ先に今川義元が、四万の大軍を率いて駿府の城を出たものだ。 永禄三年というから、一五六〇年の五月である。
 天皇に信頼され、天皇から日本の政治を預かる事が、天下を治めることになる。 そこで天皇のいる京都を目指す訳だ。
「今川ごときに、天下を取らせてなるものか。」
と、中には抵抗する者もいるだろう。そこで今川義元、ありったけの兵力で 上洛戦に備えたものである。
「おい、聞いたか。東海道を埋め尽くすほどの今川勢に、遠江も三河も 戦わずして降参だとよ。」



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