足軽大将の藤吉郎に、今日は馬のくつわを取らせ、信長が小折村へ出かけようとした。
そしたら奥方の濃姫が、つんけんした口ぶりで、
「また生駒屋で御座いますか。そりゃ、あなたの母親の里ですから、構いませんけど。」
確かに、土田御前という信長の亡き母も生駒屋の墓地に眠っている。
「たわけ!生駒屋に行くからとゆうて、その度に吉乃と逢引する訳ではないぞ。やきもちなど、やくなっ。」
「誰が、やきもちなどやくもんですか。わらわを、たわけとおっしゃったわね。ええい、投げ転がしてやるっ。」
「おっ、やるか!」
信長と濃姫が、がっぷりと組んでケンカ相撲になった。いつものことだから、藤吉郎は平然と眺めやっている。
「くそっ、やられたか。」
決まり手は、やぐら投げで濃姫の勝ちだ。
「ああ、すっきりした。これで三勝三敗ですからね。やっと五分の星に戻したわ。」