城を出てパカポコ馬を歩ませつつ、
「さすがに美濃の斎藤道三の娘だけあって、濃姫様は強う御座りますなあ。」
藤吉郎が言うと、馬上の信長、
「なあに、あやつの機嫌を損ねまいと、わざと負けてやったのだ。」
「濃姫様には負けても、絶対に負けてはならぬ敵が尾張に迫っておりまするが・・・・・」
「故に今日は生駒屋で、蜂須賀小六や日比野六太夫らと戦さの謀議じゃ。この近郷近在の
野武士らの力を借りねば、とても今川には勝てぬ。」
「そうでしたか。いや、この猿めも、お目当ては吉乃様かと思っておりました。」
「吉乃の事は、慌てず焦らず。すでにお濃と約束が出来ておるのだ。」
「ほう、どのような約束で?」
「わしが今川に勝てば、吉乃を清洲の城に呼び寄せてもよいとな。」
信長が、すこぶる嬉しそうな声で言っている。それから、こう付け加えたものだ。
「もし戦さに勝った折には、おまえにも寧寧を嫁に貰ってやろう。」
「えっ、まことで御座りまするか。ひはは、嬉しいな。そうとなったら藤吉郎、
命がけで今川の大軍にぶつかりまする。」
などと言い交わしつつ、生駒屋までやってくる。