言うなり信長、ぱっと手にした扇子を開く。ついで、自ら吟じつつ、
ひとさし舞い始めたものだ。
「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり。一度生を受けて、
滅せぬもののあるべきか・・・・・」
舞いながら、戦場に望む覚悟を決めるのである。舞い終えた信長、
すばやく戦さの身繕いを整えると、
「行く先は熱田の社!ものども、続け!」
一目散に大手門を飛び出す。ものども続けと言っても、続いたのは、
信長の馬のくつわをとっている藤吉郎と、たった六人の近習だけだ。
ひたひたパカポコ、熱田神宮を目指す。背後の城で、ようやく出陣を
知らせるほら貝がボーボー鳴り出した。
「殿は、殿はどこにおられる!」
と、慌てて城に駆けつけた織田家らの兵士らである。
「殿はとっくに出陣なされたぞ。熱田の社じゃ。急がれよ。」
門番が告げる。騎兵も歩兵も大急ぎで後を追っかけたものだ。
「信長から注進が届いたぞ!さあ、討って出ようぞ!」
尾張周辺の野武氏らも、まっしぐらに馬を飛ばす。こうして二千の兵士が熱田神宮に結集した。