藤吉郎は寧寧と結婚することになり、嬉しいので喜んでいる。
「おい藤吉郎。狭い長屋ではかわいそうだから、一戸建ての家を見つけてきてやったぞ。」
と、前田犬千代である。
「へぇ、ほんまかい。淺野家に渡す結納を貸してくれた上に、家まで見つけてきてくれたのか。 友達はありがたいもんだなぁ。」
 気の合う犬猿の仲もあったもので、この織田家の犬と猿が、年を重ねるごとに無二の親友になっていくのである。

 その桑畑のそばにある新しい住まいで、祝言を上げたのが、永禄四(一五六一)年八月三日。 寧寧十四歳、藤吉郎二十五歳の、熱熱の夏のことだ。

「ねえ藤吉郎さま。結婚したんだから、姓を名乗っては?」
「そうだよな。じゃあ、何か苗字をひねり出すか。」
「木下で、どう?木下藤吉郎。」
 寧寧があっさり言う。寧寧の本当の父親が、木下という苗字だったからだ。 実は寧寧、子供のいない叔父の浅野又右衛門の所へ、養女にきていたものだ。



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