「さて、木下藤吉郎と名前も改まったところで・・・・・」
「ところで、なぁに?」
「いずれ一国一城の主になるために、バリバリ仕事をするぞーう。」
「がんばってね、あなた。」
「おう、がんばるぞ。そのうち寧寧を、大きな城に住まわせてやるでな。」
といった藤吉郎だが、ほどなくしてそれが実現するのだから、まったく運のいい男ではある。
つまり、こういうことだ。今川義元を討ち取った信長は、三河の松平元康と協定を結んだ。
「元康よ。互いに無駄な争いはすまいぞ。」
信長が言うと、
「無論でございます。信長殿とは奈古野の城で、兄弟のように育った仲でござれば。」
と、松平元康である。
そのころ竹千代と呼ばれていた元康は織田家の人質だったが、吉法師と呼ばれていた八つ年上の信長に、ものすごく親切にしてもらっている。
夜中におしっこに連れていってもらったり、耳垢を取ってもらったり、風呂に入れてもらったり、数え上げればきりがないくらいだ。
「そこでじゃ。そちは東へ勢力を伸ばせ。わしは西へ伸ばす。依存はあるまい。」
「依存など、あろうはずがございません。」
この同盟によって、尾張の背後には、露ほどの不安もなくなった。
存分に上洛戦に臨むことができるというものだ。
尾張の西は美濃だから、そうなると信長の新たな目的は美濃攻めだ。
「美濃を攻めるためには、墨俣あたりに足場となる城を築かねばならんのう・・・・・・。」