墨俣は、木曽川を渡って美濃に入り、さらに長良川の岸に突き当たった所である。 信長は、まず佐久間右衛門にそれをやらせてみた。けれど美濃勢に妨害されて、あえなく失敗する。 今度は柴田勝家にやらせてみせた。これがまた失敗。
 血と泥にまみれた、鎧かぶとの柴田勝家が、清洲の城まで逃げ戻り、
「殿っ、面目ありません。」
「たわけめっ。何でまた雨の日に、美濃の出城を攻めたのじゃ。」
「雨が降れば川に霧が立ちまする。ならばこちらの動きを見られることもあるまいと、そう考えまして・・・・・・。」
「ところがその霧で、適の援軍が川を下ってくるのが見えなかった、と、こんな所だろう。」
「仰せの通り。」
「何が、仰せの通りじゃ。それでも織田家の筆頭家老か。もう良い、下がって休め。この、たわけめっ。」
 それから五、六日たって、
「殿。墨俣の築城、木下藤吉郎にやらせてみてはいかがでござりましょう。 とにかく今まで、命じられてことはすべて成し遂げている天才的な藤吉郎でござれば。」
と信長に告げたものがある。誰かといったら、藤吉郎自身だ。
「ぬかしたな。敵地で戦いつつ城を築くのだぞ。」
「もちろん百も承知、二百も合点。藤吉郎が見事築いてご覧にいれまする。」



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