「猿っ。」
「はいっ。」
「そもそも墨俣の城は、何のために築いたか、分かっておろうな。」
「もちろんでございます。美濃攻めの足がかりとして築いた城だということは、明らかに、明らか。」
藤吉郎は答え、さらに付加える。
「その城の主が、つまりこの私が美濃攻めの総大将となるのも、明らかに明らかでございましょうな。」
「たわけっ。わしが命じる前に、ひとり決めをするな。うぬはいささか、天狗になっておらぬか。」
「ごめんなさい。」
「よし。そのほうが、美濃攻めの総大将じゃ。甥の竜興などに負けとうないからのう。」
と、信長はもう、すっかり藤吉郎を信頼しきっている。