尾張から墨俣へひき返した藤吉郎、
「おい、彦右衛門。いよいよ美濃を攻めるが、まず何をすればよいかのう。」
「いきなり力攻めで稲葉山城を落としては、犠牲がともなう。まず、主だった美濃の武将どもを、こちらの味方につけることじゃのう。」
と蜂須賀彦右衛門である。
「すると、ふぬけの日根野備中はさておき、安藤伊賀守、大沢治郎左衛門、氏家主水正・・・・・・」
 藤吉郎が名前をあげつらねていると、
「いや、わたりをつける相手は、ひとりで結構。その一人さえ味方にすれば、あとは皆、その人物に従うだろうよ。」
「ほーう、何というご仁だ。」
「不破群は岩手城の城主、竹中半兵衛重治じゃ。」
「おお、それなら名前だけは知っておるぞ。どのような人物じゃ。」
「まだ二十一歳の若さなれど、美濃の麒麟児と噂の高い軍学者よ。」
 彦右衛門は言って、
「稲葉山の城に手をつける前に、竹中半兵衛をこちらへなびかせねば、美濃のことは思うようにならぬぞ。」
 こうつけたした。 「そうか、そうか。そのような白眉なら、ぜひともわしの家来にしたいのう。 右手に半兵衛、左手に彦衛門を従えて、思う存分に日本中をかけめぐりたいものじゃ。」



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