「わずか五万石の大名にさえ、召抱えたりするものか。 おぬしのような切れ者に大軍をさずけて、国持ち、大名にしてやったら、危なくて仕方ないわ。」
 藤吉郎が言い返し、さらにまくし立てる。
「おぬしは生涯、大名にはなれぬ。大名になるには、なるだけの愚かさが必要なのだ。 竹中半兵衛は、その愚かさにかけておる。おぬしはわしの軍師として働け。 そしたら出世は、おぬしの代わりに、この愚かな木下藤吉郎がしてやろうぞ。」
 半兵衛、笑い声をもらしている。方言めいた藤吉郎の言いぐさだけど、どこまでも筋がとおっている。
「よろしい。どのような大河も、支流を集めて成り立つ。同じ流れをつくらなくては、天下のことはどうにもならぬ。」
と、竹中半兵衛である。ついで、
「正直のところ、木下殿が私に天命を授けたとしか思いようがない。」
「そうか!やっぱりおぬしは、賢い男じゃ。そうか、そうか。」
「この竹中半兵衛、ただいまから木下藤吉郎殿の軍師として、存分に働いてみせましょう。よろしくお願いつかまつる。」
 藤吉郎、つっころぶようにして庭へ飛びだすと、地べたに額をこすりつけ、
「ありがとうござる!いや、ありがとうござる!」
家来となった男に向けて、くりかえし礼をのべている。



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