「おい聞いたか。竹中半兵衛が、木下藤吉郎の軍師になったそうだ。
「それよ。こうなると織田信長に美濃一国を取られてしまうのも、時間の問題じゃ。」
 武家や町民の間に、そんなうわさが立ちだす。 すると、美濃の武将らは主君の斎藤竜興をみかぎり、藤吉郎の配下に加わる態度を見せはじめたものだ。 中でも安東伊賀守は竹中半兵衛の岳父だから、
「よろしい。美濃一国、信長公にお渡しできるよう、お力ぞえをいたそう。」
 きっぱりと言ってのけた。なお、岳父とは妻の父親にあたる人をいう。 半兵衛の妻、お美弥は、安藤伊賀守の娘なのだ。
 伊賀守が口を酢にして、斎藤家の重心である大沢次郎左衛門と氏家主水正をくどきおとすと、あとは土砂崩れみたいなものだ。 日根野備中をのぞく稲葉城の家老クラスは、ことごとく藤吉郎になびいてきた。



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