ひそかに墨俣城まで足を運んでは、美濃攻めの軍略をねっている。
斎藤家の家老たちが、敵の城で自分の国を攻め落とす会議を開いているのだから、これはもう戦というより、内閣改造みたいなものだ。
「いちど稲葉山の城下をすっかり焼き払い、そこに新しく町を作るのでござる。 町人らには家財を持ち出しておくよう、前もって知らせておきましょう。」
と竹中半兵衛である。なおも言葉をついで、
「われわれが城下へ陣を構えても、斎藤勢はろう城を決めこんで、打って出るものは一人もおるまい。 そこで城には目もくれず、街づくりに取りかかるのです。」
「なるほど。かったあとの計らいを先にしてみせるのだな。よし、それでいこう。」
 藤吉郎がひざをたたき、声を弾ませている。
「さよう。いたずらに血を流さず、あせを流して国を取るの策でござる。 これが最もよい方法かと、半兵衛は思いまするが。」
「さすがは軍師どのじゃ!」
 藤吉郎はますます声をはずませ、
「早速、おん大将に進言いたそう。敵といっても、相手はおん大将の甥っ子じゃからのう。 その手でゆけと申されるに決まっておる。」
 このとき、おん大将の信長は小牧まで兵をおしすすめて、美濃をにらんでいた。
 やがて雪解け水もにごりをほどき、三月半ばとなる。 今では犬千代から利家と名を改めている前田利家をはじめ、柴田勝家や林佐渡守や丹羽長秀など、織田家の重心が長良川のちかくに野陣をかまえだす。 むろん美濃の属城では安藤伊賀守や大沢次郎左衛門や氏家主水正らが、協力体制をととのえ、織田がたの侵略を待ちのぞんでいる。



次へ