「墨俣の殿さんよ。ちょいと休みゃーして、いっぱい、やってちょ。」
忙しく指図している藤吉郎の前に、さかずきをさしだしたのは、尾張なまりの若者だ。
「おお、嬉しいことを言うやつじゃ。」
喜んで、藤吉郎がさかずきを受けとる。若者はひょうたんの酒をついでやってる。
「おみゃあも、尾張の人間か。」
藤吉郎がたずねると、
「へえ、その通りで。わしの父親は堀尾頼母吉久というて、もとは織田信秀様の家臣でございました。」
今は亡き織田信秀は、信長の父である。
「なんじゃと。するとおまえは織田一族ゆかりの、堀尾頼母のせがれか。」
藤吉郎、若者を見つめかえし、
「戦死した堀尾頼母のせがれが、こんな所にいようとはな。名は何と申す。」
「茂助でございます。」
「堀尾家は絶えたと思うたが、おまえはこれまで、一体どこで何をしておったのだ。」
「この城下町で、ひさご屋などやっておりました。」
ひさごとは、ひょうたんのことだ。
「ひさごやだと。馬鹿もん!やい堀尾茂助。今日からわしに仕えて、父とおとらぬ出世をとげるのじゃ。分かったか!」
「へい。わ、分かりました。ひさごがみな売れたあとで、家来にしてちょ。」
「ばかもん!ひさごなど、どうでもよい。肝に命じるは、堀尾家の再興のみじゃ!」
としかりつけておいて、
「ひさごは皆、わしが買ってやるわい。おお、そうじゃ。わしはこれからひさごを馬印にしよう。」