ふと沸いた思い付きを口にする。
「戦に勝つたびに、それを一つずつ増やしてゆこう。勝つたびに増える、
千成びょうたんじゃ。ははは、なあ茂助、えがたい馬印となろうぞ。」
このようないきさつはさておき、焼け跡に家が建つにしたがい、稲葉山城では戦意を捨てるものが増えていった。
「これでは城にこもっていても、仕方がないわ。」
「兵糧は日に日に少なくなるし、どうしたものだろう。」
その日も張りの抜けた顔で言い合っていると、
「わあーっ」
不意に山すそで、織田勢のときの声が上がった。
ついで、パパン、ピューンと銃声が鳴り渡る。城攻めというよりも脅しにかかったのだ。
「織田じゃ。織田の軍勢が攻撃してきたぞ!」
「ものども、であえ、であえ!」
稲葉山城では、上へ下への大騒ぎとなる。
槍だの刀だの鉄砲だのを手にし、城門へと駆けつける。
「大手門を、しっかり閉じておけ!慌ててうってでてはならぬぞ!」
と下知したのは、日根野備中である。そう命じておいて、
「殿っ、ここはひとまず瑞竜寺山へと落ちのびるほか有りませぬ。」
「主が逃げる気でおるのに、何でわしらが戦わねばならんのだ。」
「こうなれば門を開いて、もともと斎藤家の家老の、安藤か大沢の陣へ降参して行こうぞ」
「何を言うか。門を開くなら、華々しく斬りあって死ぬのが武士というものぞ。
主なしとて、恥をわするな!」
「犬死はごめんじゃ。俺は人間じゃ。」