「敵は領主の北畠大納言というより、高岡城の山路彈正じゃ。
やつの抵抗は、思った以上に激しいわい。」
苦りきった声で言っている。
滝川の軍勢に藤吉郎と光秀の兵力が加わったものの、十日たってもやはり高岡城は落ちない。
「木下殿。力攻めで犠牲者を増やすより、互いに使者にたって、敵を説得しようではないか。」
「分かった。こうなっては、伊勢の平定、くちはっちょうに頼るしかない。」
無鉄砲ながら、こうして藤吉郎と光秀が、単騎で伊勢の実力者のもとへ乗り込むことになる。
明智十兵衛光秀である。白旗をかかげて敵の兵士らをやりすごし、持福寺の勝恵上人に面会する。
「この戦、すでに織田方の勝利でござる。北畠大納言は、いたずらに伊勢の民を死なせております。」
「そなた、北畠に降参しろと、この愚僧に言わせるつもりじゃな。」
「伊勢の名家に降参などと、とんでもない!」
光秀、目をまん丸にして、大げさに手を振って見せ、
「信長公には、吉乃さまとの間にご子息が三人もありますれば、これをご養子にもらいうけて、和議を結ぶのでござる。」
「・・・・・・うーん」
腕組みをして、勝恵上人が考えこむ。
さて、こちらは木下藤吉郎である。
「茂助。わしの馬を、高岡城の大手門まで引いて行け。」
「やれやれ、だいじょうぶですかい。」
ひょうたんの馬印をかついだ堀尾茂助が、馬上でふんぞり返っている藤吉郎を、門のほうへと近づける。
とたんにパパン、ピュウと鉄砲玉のあいさつだ。