浅井長政には、信長の妹、お市をとつがせている。 信長には義弟の長政が、なんとか父親の久政を説き伏せてくれると思っていたのに。
「大恩ある朝倉家を見捨てるきかっ。恩義を忘れるようなものはさむらいではない。」
「父上、それならせめて中立の立場を・・・・・・」
「だまれっ、朝倉家に義理を欠くことは出来ぬ!」
 家臣の多くもこのガンコ老人に従ったので、結局長政にはどうすることも出来なかった。
「ただちに京都へ引き返す!」
 浅井家の居城は、都に近い近江の小谷城なのだ。 越前の朝倉攻めどころではない。織田の大群が、なだれをうって、とんぼ返りだ。
「小谷城を包囲しろ。わしが号令するまで、攻撃はさしひかえておれ。」
 帰りつくと、信長は秀吉らにそう命じた。小谷の城には妹のお市や、そのお市が産んだ、茶々姫たち三人の姪がいるのだ。 今しばらく城攻めをひかえて、信長は、できることなら浅井長政を反省させたいと思っていた。
 そんな折、大阪(当時は大坂)や伊勢の長島で本願寺の一向一揆が始まり、これに共鳴するように、比叡山の僧兵が坂本城を攻めだした。
「おのれ、僧徒らが宗派に関りなく団結して、わしに逆らおうというのだな。」
 信長は柴田勝家をはじめ、ありったけの武将で坊主どもに応戦する。 けれど勝敗は決しないまま、すでに夏となる。 なぐりつけるような日ざしのなかで野戦が繰り返され、ついに坂本城が比叡山の僧兵によって落とされると、
 

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