天正十(一五八二)年の春たけなわ、羽柴ぜいが姫路の城を出発する。
備中の高松城へとせめよせた。
「彦右衛門よ。高松の城にはどれほどの兵がおるぞ?」
「もともと、城主の清水宗治の家来は七百ほどじゃ。
それに、毛利家からつかわされたしょうかんの、末近左衛門の兵が二千くらいかの。」
「三千たらずか。困ったなぁ。力攻めにすると、すぐ落ちてしまうわ。」
秀吉、勝てると決まった戦にあたまをかかえているのは、毛利の大群をさそいだしたところへ
信長に来てもらって、信長の采配で毛利軍をやぶった、と、このような段取りにしたいのだ。
「わしも身分の低いときなら、さっさと勝てば良いのだが、何しろ今ではろくだか20万石にちかい大名じゃからのう。」
秀吉、うれしそうにぼやいていると、黒田官兵衛も、
「おん大将に、なんの猜疑心もいだかせず天下を統一させる。
これが上手な主人の使い方じゃが、難しゅうござるのう。」
「いっそ、このあたりに土手をきずいて、城のまわりを沼にしてはどうだ。」
と口に入れたのは、蜂須賀彦左衛門だ。
「なるほど、清音崎から門前町までつつみをきずいて、足守川や高野川の水を、
みんな流しこむわけじゃな。よし、それでいこう。」