雨の中を泥まみれになって、いったん姫路の城へかえりついた羽柴勢、 いちにち兵を休ませると、いよいよ明知光秀を討つべく京都へむけてどうどうの行進をはじめたものである。
「やーい、やい。羽柴筑前守秀吉が、大群を率いて京へのぼってゆくぞ! 見ておけや。見ておけや。」
 先ぶれが、街道すじの家から家へとよびかけつつ、走りすぎる。
「羽柴筑前は、生きて帰らぬかくごで、ぎゃくぞく、明智光秀のせいばつじゃ! 主君、織田信長公のあだを奉ずるあっぱれなお方ぞ!見ておけや、見ておけや。」
 町人も百姓も、男も女も、老いも若きも、まだ明けきらぬ街道へとかけだしてくる。 もともと百姓のせがれだから、しょみんのヒーローみたいに思われていて、
「筑前に勝たせたいものじゃのう。」
「なぁに、大忠臣の羽柴筑前が、ぎゃくぞくの明智なんぞに負けるものか。」
 街道の人々は、やんややんやの声援をおくっている。
 尼崎にたどり着くと、手勢をひきいた茨城城主の中川瀬兵衛清秀が、人ごみをわけて馬上の秀吉にあゆみよってきた。
「筑前殿。およばずながら、お味方いたしまする。」
「おお瀬兵衛か。うれしいぞ。なら、さっそく隊列に加わっていただこう。」
 しばらく行くと、今度は切支丹大名の高山右近がまちうけていて、
「筑前殿、およばずながら、お味方いたしまする。」
「おお右近か。うれしいぞ。なら、さっそく隊列に加わっていただこう。」

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