で、どちらが先に山頂にたどりついたかというと、堀尾茂助のほうである。
けど、茂助の足についてこられたのは、わずか十五、六人だ。
このとき松田好正の隊は、七合目あたりを必死で登ってくるさいちゅうだ。
「よし、ただちに攻撃せよ。」
茂助が言うと、かたわらの兵士が、
「えっ、まだ鉄砲隊の二十では、あれだけの敵にはおうじられますまい。」
「よいから、ぶっぱなせ。まず敵をびっくりさせ、それからときの声を上げるのだ。一人が十人分の声をはりあげろ。」
ダーン!ダ、ダーン!さいわい銃声がこだまを呼んで、二十の鉄砲隊が、五十にも七十にも聞こえる。
ついで、先途のときの声。
「ややっ、すでに羽柴勢が、山上をせんきょしておるぞ!」
松田の一隊がひるんで立ち止まる。
「恐れるなっ。一気に登ってしまえ!」
好正が、ありったけの声を張り上げる。そこへ遅れて登ってきた茂助の鉄砲隊が、第2弾をあびせかける。
弾ごめの合間に、やたら石を投げ、小岩をころがす。松田好正の隊は、やまはだにはりついてしまった。
「とのっ。天王山には、茂助の旗がたっておりまする。」

昼近くなたころ、若い小姓の加藤虎之助が走ってきて秀吉につげる。
「そうか。よしよし、これで山頂から攻撃される恐れはなくなった。」
馬上の秀吉、満足げにうなずき、
「ものども、とつげきじゃ!」
采配をふる。わーっと、羽柴の軍勢が山崎口へ総攻撃をかける。明智勢とぶつかる。