斬りあい、突きあいが二時間も続いたあと、ついには柴勢が円明寺川の明智の本陣へとさっとうする。うきあしだった明知勢、
「しりぞくなっ!戦え!」
という者さえうしろを見せてしまうのが、とうぜんの勢いだ。
そこへ、ついに天王山から敗走してきた松田のいきのこりが、わーっとなだれ込んできた。
こうなると明智勢はそうくずれだ。われがちに逃げていく。
明智光秀である。ぼうぜんとして夕焼けの中にたたずんでいた。
今になっても洞が峠をおりてこようとしない筒井順慶の裏切りが、信じられない。
「馬を引けっ。」
われに返った光秀、からわらの兵士に告げる。
「くつわは取るにおよばぬ。単騎で勝竜寺城へ引き上げるっ。」
いいすて、馬にむちを当てる。
まっしぐらに淀川のあさせをわたって、岸の向こうへ消えていった。