こうして秀吉の力で、織田信長のあだはあっという間に討つことができた。
「こりゃ、実力からして、器量からしても、器量からしても、羽柴筑前が当代一の武将ぞ。」
「器量はともかく、信長公にとってかわれる将軍は、羽柴筑前のほかにはおらぬというものじゃ。」
 信長がまだ生きていたころ、すでに足利義明は備後の鞆の浦においやられ、足利将軍家は事実上めつぼうしている。
「こうなったら、羽柴筑前に天下をとりしきってもらわねば。」
「さよう、さよう。」
 庶民のだれもが秀吉をもてはやし、ネコも杓子もこのようなうわさでもちきりだ。
 面白くないのが織田家の筆頭家老、柴田勝家である。
「身分のひくいうちは、主君のためにあっさり死ねるはずの人間が、 立身出世をとげると、いきのころうともがきだす。それが猿じゃ!」
 いっぽう秀吉も、
「大事なときには役に立たぬ老いぼれのくせに、かんじんなところで、あれこれ文句を言いたてる。それが勝家じゃ!」
 こんな二人の間に立って、前田利家が和議をもちだしたが、てんで話にならないというのだ。

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