ようやく秀吉の一隊が、長久手にたどりつく。
「ありゃあ、戦はすでに終わっておるぞ。」
もう敵も見方もいない。そちこちに、おびただしい死体が転がってるばかりだ。追い越した本田平八郎もいない。
この合戦は家康の勝利に終わり、池田信輝も森長可も戦死したが、まだこの時点では秀吉も知らないことだ。
「しまった!」
秀吉は叫んだ。
「平八郎はわれらの足を止めようとしたのではない。われらを長久手におびき出し、
その留守に家康めが岐阜城を襲うつもりじゃ。すぐに引き返すぞ!」
この推理は当たっていない。平八郎はあくまで羽柴勢の足を止めさせようとしたのであり、
長久手におびき出そうとしたわけではなかった。
とにかく、ここの戦はとっくに終わっている。秀吉は、家康に岐阜城を攻められてはならぬと、すぐさま兵を取って返す。
一方、秀吉よりも先に長久手までやってきた平八郎、家康が戦場を引き払っていたので、
まずは安心した。でも、どこへいったのだろう。十人ばかり、さぐりを走らせる。そのうちの一人が戻ってきた。