「露と落ち 露に消えにし わが身かな
      難波のことも 夢のまた夢」
 織田信長が、「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢まぼろしのごとくなり」 という言葉を好んだように、豊臣秀吉の辞世にも夢の字があらわれる。 秀吉もまた、人の一生を夢と見ていたのだろうか。
 夢かもしれない。生きているものはみな幽霊かも。父母から祖父母、ひいじいちゃんに、ひいばあちゃん・・・・・・ ひいひいひいひい、と、自分の命をたどれば、先祖の墓につながっているではないか。生きている者は、 みな先祖の墓から迷い出た幽霊だ。だからこの世でふわりふわりしたのち、先祖の墓に戻っていくではないか。
 このあと天下を統一した徳川家康は、人生を夢などとは思っていなかったろう。家康は現実を現実として冷静に見極め、 徳川三百年の礎を築いたものである。

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