吸血鬼


人間であって、人間でない、死者であるが完全な死者ではない、墓場から現れても幽霊とは異なり存在感がある。生ける死体にはゾンビがいるが、これは甦ったおぞましい腐乱死体である。そこには恐怖はあっても、吸血鬼のような血の美学はない、吸血鬼は「血は生命の水」という思想から、死しても腐乱せず、永遠の生命を持っている不死人間である。
しかし闇の世界では跳梁跋扈するが、白昼の日光の下では棺の中の死体にすぎない。
甦った超自然的死者に対する恐怖、血を大量に吸われたら死ぬという恐怖、このふたつの恐怖から人間は吸血鬼を恐れる。しかも吸血鬼に血を吸われたものは、死者となってから甦り、他人の血を吸うことで自分も吸血鬼になるという伝染性がある。これらはいずれも伝説である。吸血鬼は大体が血液に対する原始的信仰、医学的無知と迷信から生じた虚構の存在であるといってよい。
吸血鬼は心臓を木杭(銀の杭という説も)で突き刺し、準備した薪で死体を焼却し、その灰を撒き散らす」と復活しないという。吸血鬼存在の根拠となったものの一つに「生前埋葬」がある。昔の山奥の農村のことである。まじない師はいても医者と呼べるものはほとんどいなかった。無知蒙昧な住民たちは、病気や事故で仮死状態になると、本当の死と区別できず、仮し状態のまま土葬の風習で棺に納められ墓に埋めた。患者が土中で息を吹き返し叫んでも外には聞こえず、棺を壊し土を掘り返して地上に出るだけの力はない。棺中で酸素不足から息苦しくなって唇を噛み喉の渇きに自分の血をすすることもあったろう。しかし救助の手は差しのべられず、ついには息が絶える。後で偶然に発掘された遺体は実際の死に至るまで苦しみ暴れ、血潮にまにれた姿がさながら吸血鬼である。また寒冷地であれば、極寒の冬など死体が凍結して腐敗が遅れ、いつまでも原型を保っていたことはありうる。
死体が発掘されたとき、単に生前の姿を保っていることだけで、それが生者の血を吸っているためだと決めつけられた例もかなりあった。その他、カニバリズム(食人)も吸血鬼起原の一つである。食料が無ければ強者が弱者の血をすすめ 肉を食らうのはあたりまえの事であった(人類の原始時代)
吸血鬼がコウモリに変身し、空を飛びどんな場所でも自由に出入りするというのは、ヨーロッパ人の創作である(吸血コウモリによる)
男性には睡眠中に現れて情交を迫るサキュバス、女性には睡眠中に侵入して犯すインキュバスなどの伝説の淫夢魔も、吸血鬼の部類に入れられた。
代表的な吸血鬼の例として ラクシャサ・ストリゲス・ノスフェラトゥ・キョンシ−がある。

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