T序 ページの先頭へ |
現代人の健康に対する欲求,自然に対する欲求や人とのふれ合いの欲求は,不足しているために非常に高くなっています。日常生活を離れ,遍路道を「歩くこと」を野外での運動として考え,自然の中を歩くということは,日常生活において運動をする機会のすくなくなりかつ自然に接触することの少なくなった現代人にとって,好ましい運動であり,関心の高いテーマでしょう。遍路道を「歩くこと」は,運動量もあり,現代人の多様なニーズに答えることができる最もシンプルな野外での運動ということができます。
また遍路は,一定のルートを寺・庵・堂をポストとして,あるいは,目印としての遍路石をチェックポイントとして,自然の中を歩きます。その意味で,オリエンテーリングともいえるのです。しかし,自然道ばかりでなく,様々のものを目印として,チェックポイントを通過し,町の中の複雑な道を歩くのですから、その意味で,ウォークラリーともいえるでしょう。ともに他の運動に比べて,多くの人が気楽にできる大衆的で健康な野外での運動です。
この研究は,瀬戸内海国立公園として,美しい自然の中に存在する本四国遍路のミニチュア版としての小豆島徒歩遍路を自然を背景とした野外での運動としてとらえ,島四国遍路徒歩マップを作成し,自然的観点及び歴史的観点等からも考察するものです。さらに野外での運動の指標としての運動強度を求め,野外運動論的考察を加えることを目的とします。
U研究の手順 ページの先頭へ |
第1に島四国遍路の徒歩マップの作成にあたっては,仮の遍路道を想定し,その後,実地調査によって現時点で歩くことができる昔からの遍路道に近い島四国遍路道の徒歩マップを作成しました。
第2に野外での運動としての運動強度を把握する目安として,距離・歩数・時間・
標高差・心拍数・エネルギー消費量の視点から島四国遍路の運動強度を求めました。
第3に島四国遍路をオリエンテーリング・ウォークラリーとしてとらえ,全国パーマネントコースの距離を参考にしてコースを設定し,各コースの毎の特徴を得ました。また,実地調査の結果から各コース毎の運動強度を示し,オリエンテーリングとしての地図の作成・ウォークラリーとしてのコマ地図の作成を行いました。
V結果と考察 ページの先頭へ |
1島四国徒歩遍路の概要
できるだけ,遍路道を歩きたいという人は多いのですが,遍路道を迷わずに歩くためには,へんろ石の設置や整備や地図の作成が考えられます。四国遍路では,歩く遍路のための遍路道に関する詳細な徒歩マップがあるのですが,島四国遍路においては徒歩マップはないのです。そこで,島四国遍路の場合も同じような要望があると確信して,島四国遍路徒歩マップを作成しました。
旧遍路道を知るためには,小豆島遍路道を守る会が企画している「大師を偲ぶ遍路行」が現時点で,旧遍路道に関する事柄については信頼性が高いと考え,実際に参加し,聞き取りを加えながら歩いてみることで島四国遍路道の確定としました。
島四国遍路の全行程を歩くと145.5kmであり,23万1608歩,時速3.54kmで歩きました。四国遍路の徳島県の行程とほぼ同じ約150kmでした。歩くだけで40時間21分,休憩を含むと59時間52分であり,6泊7日であり,2日間は半日でした。自然道は22.8%,ポストとしての札所は小豆島全島に散らばっています。
四国遍路の場合,奥の院・番外霊場を除いた263ヶ所のなかの88札所をまわるのが標準ですが,島四国遍路の場合は八十八ヶ所の本番霊場に加え,奥の院6ヶ所を含めた94ヶ所をまわるのが標準となっています。徒歩遍路にとって有力な道標となるへんろ石は,ほぼ,同じ距離である徳島県内の遍路道では473基発見されてい、ますが,島四国遍路の場合,実地調査で発見できたのは,その半数強の265基でした。また,自然性や歴史などについても考察しました。
2島四国遍路の運動強度
島四国遍路を歩くということは,野外で行う運動であり,歩くことを中心にした運動です。歩くことは,技術的な面で個人差が少なく,用具も必要でなく,スピードの変化で運動強度を変えられ,場所もいろいろと選択できます。はたして,島四国遍路全行程は運動として十分な運動量があるのかどうかを調べてみました。
各行程には坂あり道の状態ありそれぞれ特徴がありますが,各行程の運動の強さのひとつの目安として,距離・歩数・時速・時間・標高差・心拍数・エネルギー消費量から検討した結果,距離145.5km,歩数23万1608歩,歩巾62.8cm,時間40時間21分,6泊7日の行程で2日間は半日,時速3.54km,標高の高いところは石門洞(570m),最高心拍は恵門の滝(157拍),エネルギー消費量は10644kcalでした。つまり、島四国遍路は野外運動として十分な運動量があったのです。
3野外運動としての島四国徒歩遍路
遍路は,精神的には信仰であり,歩くという行為から考えると自然を背景とした野外での運動です。島四国遍路道をただ単に歩くのではなく,オリエンテーリング・ウォークラリーとしてとらえ,現在歩くことのできる遍路道を分割し,13のコースを設定し,オリエンテーリングとしての地図・ウォークラリーとしてのコマ地図を作成した。また,13のコースの運動強度・自然性についても考察した。
W結語 ページの先頭へ |
島四国遍路は十分運動量があり自然や文化に触れ,多くの人が楽しめる大衆的なものであり,心身の健康のために自然保護のために一人ひとりの価値観の改革をはかる可能性を秘めた実践哲学です。つまり,体に優しい調和のとれた人間的な未来志向型の価値のある運動であり,現代人の多様なニーズに答えることのできる最もシンプルな野外での運動であると結論できるでしょう。遍路道が文化遺産として残っていくためには,歩くことができるように遍路道を保護したり,整備したりすることは,もちろん必要でしょうが、その保護や整備が無駄に終わらないように歩く人が絶えないことが必要です。遍路は歴史であり,今,歩くことがすなわち歴史を形作っていくのです。
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