不滅の恋人への手紙            3枚目

  

七月七日、おはよう――ベッドの中からすでにあなたへの

思いがつのる、わが不滅の恋人よ、運命が私たちの願いを

かなえてくれるのを待ちながら、心は喜びにみたされたり、

また悲しみに沈んだりしています――完全にあなたといっし

ょか、あるいはまったくそうでないか、いずれかでしか私は

生きられない。そうです、私は遠くへあちこちとしばらく遍歴

しようと決心しました。あなたの腕に身を投げ、あなたのもと

で完全に故郷にいいる思いを味わい、そしてあなたに寄り

添われて私の魂を霊の王国へと送ることができるまで――

そう、悲しいけれどそうしなければならないのです――あな

たには、あなたに対する私の忠実さがお分かりだから、いっ

そう冷静になされるはずです。他の女性が私の心を占める

ことなどけっしてありません。けっして――けっして――おお

神よ、これほど愛しているのに、なぜ離れていなければなら

ないのでしょう。それにしてもV(ウィーン)での私のいまの生

活は、なんとみじめなことか――あなたの愛が、私を誰より

も幸福にすると同時に誰よりも不幸にしているのです――こ

の年になると、波瀾のない安定した生活が必要です――私

たちの関係でそれが可能でしょうか?――天使よ、いま郵

便が毎日出ることを知りました――この手紙をあなたが早く

受け取れるように、封をしなければなりません――心をしず

めてください、いっしょに暮らすという私たちの目的は、私た

ちの現状をよく考えることによってしかとげられないのです

――心をしずめてください――愛してほしい――きょうも

――きのうも――どんなにあなたへの憧れに涙したことか

――あなたを――あなたを――私のいのち――私のすべて

――お元気で――おお――私を愛し続けてください――あ

なたの恋人の忠実な心を、けっして誤解しないで。
 

 

永遠にあなたの
 

永遠に私の
 

永遠に私たちの
 

 

 

*この不滅の恋人への手紙は高崎第九合唱団の方のホームページから引用させていただきました。

新しい恋文
 

1949年になって、突如1804年から4年間にわたってジョセフィーヌ宛てに書かれたベートーヴェンの13通の恋文が現れました。(正確にはベートーヴェンの肉筆と、彼の手記をジョセフィーヌが自分のノ−トに書き写したもの一通、それと彼女自身のベートーヴェン宛の下書き7葉)。
公表されたベートーヴェンの手紙のなかで、これほど切実に心を打ち明け、深刻に異性に愛を告白したものは他になかったのです。それは『不滅の恋人』への手紙すら色あせる程でした。しかし、色々曲 折を経てこの恋は実らなかったのです。
 

真の『不滅の恋人』は誰か
 

一番手紙の受取人として可能性が高いのはベートーヴェンの身近な交友関係のなかにあったがため、そして既に結婚していたために考慮から外されていた女性が俄に脚光を浴びることとな ったのはフランクフルトの銀行家ブレンターノ夫人ではなかろうかと目指されたのは、後期のピアノ・ソナタ作品109がブレンターノの娘、マキシミリアーネに献呈されたことに端を発しました。
 

 作品に込められたベートーヴェンの様々な思い、第二楽章の主題変奏の連作歌曲集『遙かなる恋人に寄せる』の心を込めた旋律を 密かに忍ばせたベートーヴェンの心情は、たとえこの娘マキシミリーネが彼の晩年の身辺に現れたとはいえ、若い娘に対するベートーヴェンの慕情の思いが急に沸き上がったとは考えられないのす。むしろその娘を通して、その母親、アントニー、すなわち通称トニーと呼んだ女性に、ベートーヴェンは切々とした思いをもう一度伝えたかったと考えることによって、全ての疑問は解決するようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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