進む肥満遺伝子の解析



「やったー!」これをヒトに応用すれば「夢の痩せ薬」ができる。カリフォルニア州のアムジェン社はロックフェラー大学に26億円を支払い、肥満遺伝子にかかわる物質を生産する独占権を手に入れた。さすがに素早い動きである。するとアムジェン社の株価は、ストップ高を記録するほど上昇した。
しかし――…そんな大喜びもつかの間のことであった。
肥満遺伝子に欠陥はないが、別の原因による肥満マウスでは、レプチンの効果はかなり低かった。そして、普通のマウスではレプチンの効果はほとんど見られなかったのである。レプチンの注入は肥満遺伝子に欠陥のある特殊なマウスにだけ「痩せ効果」があることが分かった。
こうして、研究者の目は、レプチンからレプチンの受け手のレセプターに移ったのである。

ミリエム製薬のルイス・タタグリアもレプチンの受け手のレセプターに目を向けた一人である。彼は、肥満遺伝子は正常に働いてレプチンをつくるが、別の遺伝子的な理由により、ぶくぶくに太る肥満マウスに注目した。そして1995年12月、彼は、尾のマウスから肥満の原因と尾m追われる欠陥遺伝子を捕まえ、これを糖尿病遺伝子(=db遺伝子)(←念の為ですが…dbはデブの略ではなく、diabetes(糖尿病)の略です)と名付けた。すなわち、この肥満マウスはレプチンの受け手であるレセプター遺伝子(糖尿病遺伝子)に欠陥があるのだ。
糖尿病遺伝子の名前の由来は、この遺伝子に欠陥をもつマウスはデブになるから、糖尿病になるのは確実ということだ。


ここまでをまとめてみよう。
十分に食物をとると全身の脂肪細胞でレプチンが生産され、これが脳の視床下部にあるレセプターに結合すると、食欲が抑えられる。過食が止まればカロリーの取りすぎが解消され、スリムになる。

ところが、レプチンに異常が起きても、その受け手であるレプチンレセプターに異常が起きても、食欲を抑えるシグナルは発生しない。これでは、食欲は一向に下がらず、過食は続くのでデブになるのだ。


これまでの研究から、レプチンとそのレセプターは食欲のブレーキとして働いていることが分かってきた。そして、レプチンとレセプターのどちらか一方に故障が発生しても、食欲のブレーキが働かず、肥満という結果になってしまうのである。


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