バクテリア・ウイルス
この地球には膨大な数の生き物が住んでいる。小さなものでは乳酸菌や大腸菌などの微生物、それよりやや大きいのがキリギリスやバッタなどの昆虫類。昆虫類よりやや大きいのがサバやサケなどの魚類である。魚類よりさらに進化したのがワニやカエルなどの爬虫類だ。爬虫類よりかなり進化したのが、ネズミ、サル、ヒトなどの哺乳類である。また、動物の世界とは別な生物の仲間に、イネ、エンドウマメ、スギなどの植物がある。これらすべての生物の中でもっとも複雑でしかも進化したヒトは地上の王者となっている。
微生物の代表ともいえる乳酸菌や大腸菌などのバクテリアは、細胞を一個しか持たない単細胞生物であるから、下等な生物である。それでも大腸菌の細胞には、遺伝を担当する遺伝子、たんぱく質を生産するリボソーム、細胞にエネルギーを 供給するミトコンドリアなどが備わっている。
【栄養素さえあればちゃんと生きていける通常の生物について】
わずか直径一ミクロン(1000分の1ミリメートル)の小さな一戸の細胞しか持たない大腸菌であるが、リボソームやミトコンドリアを備えているから、栄養素さえ十分に与えられれば独立して生きていける。大腸菌は立派な立派な生物なのである。一方、膨大な数の細胞が寄り集まってできたヒト、動物、植物は多細胞生物であるから、大腸菌よりずっと進化した高等生物である。また、高等生物の細胞の直径は大腸菌の10倍で、約10ミクロンもある。
高等生物のヒト、イヌ、スギの姿形はずいぶん異なるが、構成成分である細胞の構造はとてもよく似ている。すなわち、細胞の真ん中には核、核の周りにはリボソームやミトコンドリアなどの細胞の成分がある。そして、核の中では遺伝子がぐるぐる巻かれた状態でコンパクトに詰まっている。応答生物の細胞に色素を加えて顕微鏡でのぞいてみると、核の中に細胞が分裂しているときだけ染まる塊が見える。これが染色体で、多数の遺伝子の集まりである。
【ウイルス】
ウイルスとは、遺伝子やその集まりである染色体をカプシドというたんぱく質で包んだもの。わずか0.1ミクロンの大きさに過ぎないウイルスは、その10倍の大きさの大腸菌に容易に感染するのである。
ウイルスに遺伝子はあるが、リボソームもミトコンドリアもない。すなわち、ウイルスはタンパク質を自力で生産できないため、栄養素がいくらあっても自立して生きられない。ウイルスは生物として一人前ではないのである。ところが、ウイルスは生きている細胞(ヒト細胞、バクテリア細胞、植物細胞、動物細胞)に忍び込んで、細胞のリボソームやミトコンドリアを勝手に利用して生きる。
ウイルスは自力では生きられないが、他力によって生きる生物なのである。何かにたかって生きることを寄生というが、寄生はウイルスの生き方である。バクテリアもウイルスも嫌われることが多いのだが、遺伝子工学ではどちらもうまく活用して、衣料品、食料などの製品が生産されている。