化 学 的 実 験  第五講


5−5 錬金術的実験
 ここでは錬金術で最も有名だろう、賢者の石の生成方法を記述する。ただし、これはエメラルド板を解析した結果であり、当然解釈も諸説ある。必ずしもこれが唯一の方法という訳でもなく、更に解釈をひとつ変えるだけで手順が大きく変わってしまう事も付記しておく。
 そして、トップページの意味不明な文言こそが、この賢者の石の生成法を述べたものの一つである。

 また、これはあくまで単なる紹介なので、本当に賢者の石が手に入る可能性は0%である。断言するが、絶対に不可能だ。何故なら 1−2 錬金術の基礎理論 で述べた通り、錬成開始の切欠として生気論が存在するからだ。格闘技をちょっと齧った程度の人間がハリウッド張りに喧嘩相手を殴り飛ばせないのと同じであるし、そもそも知識と技術は別物である。
よって、実際に実験を行う事は絶対に推奨しない。「実際にやってみたが何も出来なかった」「実験途中で大怪我を負った」等というクレームは一切受け付けないので、やってみたい方は自己責任でどうぞ。

 さて、賢者の石の生成過程は大きく二つに分ける事ができ、二種類の石が手に入る。最初に「小作業(小錬金法)」を行うと、白い石が現れる。これは卑金属を銀に変える石である。さらに「大作業(大錬金法)」を行うと、卑金属を金に変える赤い石が手に入る。  広義にはどちらも賢者の石であり、実質、小作業と大作業は同一である。作業を行っていくと材料が白い石となり、極限まで続けるとそれが赤い石となる。


 手順1
・まず材料の準備ですが、「水銀」と「硫黄」を使用します。しかし、正確には何でも構いません。錬金術では物質の原一性が前提です。
 また、器具なども錬金術師は自分で作っていたそうです。
 ある薔薇十字団の著作者は次の様に述べています。「〜(前略)〜 その材料の準備は子供にも出来ることである。もし彼が神の祝福を受けているならば。
 ただし、出来るだけ純度の高い水銀と硫黄が必要なので、その材料は色々な事をして純化する必要があります。ですが、それは非常に面倒臭いため最初から高純度の物質を用意すると簡単です。
 その物質とは金と銀です。ここでは金と銀を使った場合を説明します。努力して「硫黄」と「水銀」を抽出した方は手順2を飛ばして手順3に進んでください。

 手順2
・次に金から硫黄、銀から水銀を取り出し錬金作業の直接材料「レビス」を生成します。つまり、金と銀は賢者の石の材料の材料と言う事ができます。
 硫黄の抽出にはアンチモン、水銀の抽出には鉛が使われました。この純化の作業は三回繰り返すそうです。(天然の金はそのまま使ってもよいそうです)
 そして純化した金と銀を酸で溶かして混ぜ合わせ、結晶化してから加熱します。加熱したら分解されるので、その残った物質をもう一度酸で溶かしたものがレビスです。

 手順3
アタノール
・このレビスを「哲学の卵」に密閉して、右の画像のようなアタノール(炉)に入れます。
 哲学の卵とは水晶でできた丸底フラスコの事で、卵に多産や創造という意味があった事からこの様に呼ばれました。哲学の卵にレビスを入れたら口を密封します。
 アタノールとは、蓋の空いたドラム缶に半球状の天井を付けたような形の炉で、中ほどには水晶をはめ込んだ二つの覗き窓、下部には空気を入れるための扉付きの穴がいくつかあいています。
 天井の半球は熱を反射するためです。また、中央には哲学の卵を置くための三脚の様な物があり、下部では加熱用に石綿を芯にしたランプが置かれました。

 手順4
・アタノールに入れた哲学の卵を四段階で加熱します。なお、作業の最後まで火を止めてはいけません。
 まずはエジプトの気候と同じ約60℃から70℃でレビスが黒くなるまで加熱します。次に270℃ぐらいまで温度を上げ加熱を続けると全ての物が腐敗し蒸気が出始めます。
 そうすると次に虹色が現れるので、430℃程度まで更に温度を上げます。先の蒸気がこの段階で昇華し凝結します。なお、この時レビスは白い固体のはずです。この虹色が出ればほとんど成功したと言ってよいでしょう。逆にここで虹が現れなければ失敗です。
 また、この時のレビスが白い石の事で、ここで作業をやめれば白い石が手に入ります。
 虹色が現れたら今度は320℃あたりまで温度を下げます。するとレビスは赤くなり、これで賢者の石の一歩手前の物質アゾトが生成されました。

 手順5
 レビスがアゾトに錬成されたら加熱を終了し、哲学の卵を取り出し、割って、中のアゾトを取り出します。アゾトはまだ脆く不完全なため、溶けた金と混ぜ合わせ発酵させる事で、完璧な賢者の石が手に入ります。

 これらの手順に補足を付け加える。一部の錬金術師は占星術を重要視し、天体の動きや季節等を考慮して錬金作業を行った。
 例えば、材料を手に入れるのは「土星が精気を身ごもる時期」か「太陽が白羊宮(牡羊座)から金牛宮(牡牛座)に移行する時」か「太陽が天蝎宮(蠍座)に、月が磨羯宮(山羊座)に入る時」の風雨の激しい時でなければならない、とか世の中に「世界の精気」が溢れている春が適しているなどである。
 また、この実験には何年もの準備期間を経た上で最低でも四十日以上がかかるとされている。

 蛇足だが、この実験は「湿った道」と呼ばれる手法で、多くの錬金術師がこの手法で実験を重ねた。これと対比させて「乾いた道」という実験手法がある。
 これは僅か四日で作業を完成させる事が可能な手法らしいが、僅かな錬金術師しか実行しなかったため割愛する。
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