聾(ろう)について



ここで、私たち聾者の"聾"ということについて、説明しておきましょう。


現在の医学用語では、聴力が悪い状態を難聴(なんちょう)といい、聴力が非常に悪くなった状態、つまり、きわめて高度の難聴を聾といいます。

その難聴の程度については、平均聴力レベルが90デシベル以上の難聴を聾ということが多いですが、まだ完全に統一された基準ではありません。

一方、聾教育界では難聴と同意義に使用していて、たとえば軽度の聾とか高度の聾といったり、その種類を伝音性聾とか感音性聾といったりします。

その反面、聾学校では高度の難聴をもつ生徒のみを対象としています。

このような混乱は、英語のdeaf("耳が聞こえない")という語の訳に原因があります。

欧米でもdeafは日本の医学界でいう難聴の場合と、聾の場合とがあります。

最近ではdeafを重症の難聴のみに使うべきであるという人が欧米の医学界にもいます。

聾にしてもdeafにしても、近代医学が発展する以前から一般の人が使用していた言葉で、それをそのまま医学や教育学で特定の定義をして用いようとしたところに混乱の原因があります。

聾ということばは非常に古くから使用されてきた漢語で、耳が聞こえない状態をいう語です。

その聞こえないということの解釈の差が意見の差になってきます。

実際に「完全に聞こえないという状態はない」といってもよいほどまれで、非常に聞こえが悪い人でも、ある周波数の非常に強い音は感知できて、これを残聴といいます。

言語習得前に高度の難聴になった人は、特別の言語訓練を受けなければ、ことばを話せない唖(あ)の状態になります。

そのような人を、聾唖者と呼ぶこともあります。




      

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