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栄養豊富なミドリムシ

現在では、様々な分野での活用が期待されているミドリムシですが、最初にビジネスとしての可能性を見出されたのは、食品分野での応用でした。ミドリムシは、豊富な栄養をもち、現在では健康食品として販売もされています。そのような、食品としてのミドリムシの世界について紹介します。

ミドリムシの栄養素と高い吸収率

ミドリムシの栄養素

ミドリムシには、動物的な性質と植物的な性質の両方を持つという特徴があり、ミドリムシに含まれる59種類の栄養素の中には、植物的なものと動物的なものの両方が含まれます。また、パラミロンというミドリムシ特有の栄養素も含まれ、様々な効果が期待されています。

ユーグレナ - 59種類の栄養素を持つスーパーフード「石垣島ユーグレナ」より)

ミドリムシに含まれる、ビタミンCやビタミンK、葉酸などは植物系の栄養素です。ビタミンCは細胞同士をつなぐコラーゲンの生成に不可欠ですが、体内に貯蔵しておくことが難しいため、頻繁に摂取する必要があります。ビタミンKは血液の凝固因子コントロールする役割があり、不足すると止血しにくくなってしまいます。また、葉酸は赤血球や細胞の生成を助けることから、特に妊娠中や授乳期の女性にとっては重要な栄養素です。

ミドリムシには動物的な栄養素も含まれ、ビタミンB1、ビタミンB12、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)などがこれに当たります。ビタミンB1は豚肉などから摂取することができ、糖質をエネルギーに変換するのに必要なため、不足すると疲労感や倦怠感が引き起こされます。ビタミンB12は貝類やレバー、魚類などから摂取でき、葉酸とともに赤血球中のヘモグロビンの生成を助けます。また、脳からの指令を伝達する神経を正常に保つ役割もあり、不足すると悪性貧血や神経障害につながります。DHAやEPAはイワシやサバなどの脂の乗った青魚などに豊富に含まれます。DHAは目や脳、心臓の働きに重要な役割を果たしていると言われており、EPAは血圧や血液粘度を低下させる、すなわち血液をサラサラにする効果があるとされています。

他にも、ミドリムシには人や動物が体内で作ることのできない9種類全ての必須アミノ酸や、ミネラル類などが含まれ、極めてバランスよく栄養を摂取することが可能です。必須アミノ酸のバランスを表す「アミノ酸スコア」は100の理想値に対して、ミドリムシは83で、栄養食品として注目されているクロレラの54、スピルリナの51を大きく上回っています。この「アミノ酸スコア」は豚肉や牛肉、カツオ、鶏卵などが100に達し、チーズや貝類などのスコアはミドリムシを上回ります。

ミドリムシの吸収率

生物の細胞には「細胞膜」というものがあり、それが細胞の内外を隔てていますが、植物細胞にはさらに外側に「細胞壁」というものがあります。細胞壁は細胞の形を安定させ、セルロースやグリニンなどの成分からできています。動物細胞には、細胞骨格という構造を細胞内部に持ちますが、木材の建造物が何千年ももっているように、植物細胞の持つ細胞壁の方が圧倒的に頑丈です。

しかし、食料として見たときには、細胞壁は栄養を吸収する壁障となります。多くの動物はセルラーゼというセルロースを分解する消化酵素を持っておらず、牛や馬などの草食動物は臼状の歯で植物をすり潰し物理的に細胞壁をできるだけ破砕した上で、セルラーゼを産出することのできる微生物を胃などの消化器官に共生させ、反芻を繰り返し消化しています。

人間は、セルラーゼを持っていない上、牛のようにセルロースを消化できるような仕組みも持たないため、細胞壁の弱い植物を食べたり、加熱することで細胞壁を破壊したりして、植物を食べてきました。このような工夫をしても、食べた植物は消化しきれず、かなりの部分がそのまま排出されます。

一方、細胞壁を持たない肉や魚は植物に比べて消化もしやすく、栄養の吸収率も高くなっています。ミドリムシも細胞壁を持たないため、栄養分の消化吸収率は93.1%と高くなっており、効率的な栄養の摂取が可能になっています。

完全食の有用性

国連食料農業機関(FAO)や国連世界食糧計画(WFP)ら5つの国連機関がまとめた報告書によると2019年の世界の飢餓人口は、約6億9,000万人にのぼり、2018年から1,000万人、5年間で6,000万人近く増加したと推定されています。この中では、食べ物が全く手に入らないケースは少なく、必要な栄養をバランスよく摂ることができていないために飢餓状態となっている人々が多いとされています。実際に、米や麦、トウモロコシなどの穀物は支援物資として、世界中に行き届かせることができるようになってきていますが、健康体でいるために必要な栄養分をバランスよく摂取できるように、食料を確保して支援するのは難しいのが現状です。

そのような現状の中で、ミドリムシのように、動物性の栄養素も、植物性の栄養素も、ミネラルも摂取できるような食料が、大量に培養できるようになれば、こういった状況の打開につながるかもしれないと期待されています。

ミドリムシを用いた様々なビジネスを展開しているユーグレナ社の社長である出雲充氏も、大学生時代にバングラディシュで飢餓の現実を目にし、食料問題について考えるようになり、後のユーグレナ社設立に影響を与えたとしています。

パラミロンの可能性

ユーグレナは、他の生物には含まれないパラミロンという栄養素を持っています。パラミロンは、グルコースが長く連なった多糖類で、特殊な分子構造をしています。植物は、光合成によってグルコースを生成しますが、グルコースのままであると、他の物質と反応したり、浸透圧によって細胞を維持できなっくなったりする恐れがあるため、デンプンなどのグルコースと比較して大きな分子にします。これによって、あまり水に溶けなくなり、貯蔵もしやすくなります。グルコースにはα型とβ型があり、水溶液の中では、変換し合うことによって均衡状態を保っています。

α型のグルコースとβ型のグルコースがどのように結合し合うかによって、性質の異なる物質が作られます。

うるち米のデンプンであるアミロースは、α-グルコース分子同士が図の①と④の炭素のところで結合しているため、「α1,4グルカン」となります。構造は、比較的緩い螺旋構造をしており、分解がしやすくなっています。

セルロースでは、β-グルコースが①と④の場所でつながっているため、「β1,4グルカン」となり、構造はとても強いシート状になります。

ミドリムシが生成するβ-グルコースが①と③でつながった、「β1,3グルカン」がパラミロンとなり、三重螺旋の構造をしています。

このパラミロンは、病原体の糖鎖と似た形をしており、体内の免疫細胞には病原体であると認識されます。これによって、免疫細胞が活性化されるという効果があります。マウスによる試験では、インフルエンザの症状を緩和させる可能性が示唆される結果を得ることに成功し、アトピー性皮膚炎患者への研究でも症状を緩和することを示唆する結果が確認されました。

グルカンは、様々な生物によって生成されますが、通常、複数の種類のグルカンが混ざり合って生成されます。しかし、ミドリムシは「β1,3グルカン」のみを生成し続けるため、他のグルカンが生成されません。原因や目的は解明されていませんが、工業用途などへの活用では、純度100%であることが重要となるため、このような視点からも注目されています。

ミドリムシ食品の現状

現在では、複数のミドリムシ食品が販売されており、レストランやコンビニでもミドリムシを食材として使った商品が販売されています。豊富な栄養素を活かすため、サプリメント系の食品が多くなっていますが、パンに練り込んだり、レストランで調理したりと、栄養の摂取だけが目的ではなく、ミドリムシの味を楽しむ活用法も模索されています。ミドリムシには、あまり強い味はありませんが、魚のような「旨味」を感じられ、これはアミノ酸が多く含まれているからだと考えられています。このように、ミドリムシ食品はとても身近な存在となっており、誰でも購入することができます。

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