ミドリムシには豊富な栄養素が含まれており、飼料への活用も行われています。飼料は人に向けたの食品とは違って、ミドリムシへの先入観や、初めて食べる食品への抵抗感などがなく、シェアの拡大も比較的容易であると考えらえています。
高タンパクな飼料は、家畜の効率的な成長を目的として、従来から使用されてきました。牛は本来、牧草や藁などの植物性の飼料を食べますが、牛骨粉や魚粉などを加えたタンパク質強化飼料を食べさせることで、肉牛の場合は体重の増加が早まるなどのメリットが、乳牛の場合だと搾乳量が増加するなどのメリットが生まれ、畜産業の収益性を高めてきました。
ミドリムシには、タンパク質が豊富に含まれているだけでなく、アミノ酸のバランスが良く、同時に植物性の栄養素も摂取できます。また、豚や鶏といった家畜の飼料への利用も可能です。アミノ酸のバランスが良い、ミドリムシを飼料として使用して育った牛は、柔らかく味も良い肉質となると言われており、ミドリムシを飼料としたことを全面に打ち出した「ブランド牛」としての価値を見出せるともされています。
こういった、ミドリムシを餌にして育った食料は、ミドリムシを直接摂取することに抵抗がある人でも、躊躇わずに食べることができ、ビジネスとしての可能性もあります。
飼料を高タンパクにするため、牛骨粉を加えることがあるということは前述した通りですが、1990年代ごろには、牛海綿状脳症(BSE)に感染した牛の脳や脊髄などを加えた飼料が、他の牛に与えられたことが原因でBSEの感染が拡大するといったこともありました。対して、ミドリムシは天然のものであるため、こうした危険性がなく、加えて栄養素も豊富であるので、化学的な栄養素の添加も不要です。そのため、原料の品質管理がしやすく、安全な飼料であるといえます。
日本で養殖されている、ウナギ、マダイ、ブリなどの肉食魚は、タンパク質を摂取させるために与えているダイズやナタネの油粕を配合した餌をあまり食べないため、魚粉入りの飼料を与える必要があります。動物的な特徴ももつミドリムシは、これらの肉食魚にも餌として食べられることが分かっており、魚粉の代替として注目されています。
先述したように、いくつかの肉食魚を養殖するためには、魚粉を原料にした飼料を与える必要がありますが、近年魚粉の輸入価格は上昇しており、2015年4月には212,538円(円/トン)となったこともありました。直近数年では、価格は少し落ち着いてきていますが、国連食糧農業機関(FAO)は、世界的な需要の強い状態が続くことから、高水準が持続すると考えています。
この原因として、中国などの新興国の経済成長や、国際的な魚食ブームなどによって、養殖魚需要が高まっていることなどが挙げられます。それに対して、魚粉の原料は、小さかったり、傷がついていたり、市場で売れ残ったりするなどして廃棄された魚であるため、供給量は限られます。そのため、価格が高騰しているのです。
対して、ミドリムシはプラントで計画的に生産されるため、需要に合わせて供給を調節することができ、粉末にすることで長期保存も可能です。そのため、供給・価格の安定性が高くなります。供給・価格が不安定であれば、経営計画すら立てられなくなってしまうなど、経営への深刻な影響があるため、多少価格が高くても供給・価格の安定しているミドリムシ飼料は、普及すると考えられています。
ミドリムシ飼料を魚に餌として与えたら、稚魚の致死率が低下したり、鶏にミドリムシ入りの飼料を与えると、身体や細胞を正常に保とうとする物質で、血圧低下や肝機能強化などの効果もあるタウリンの、筋肉に含まれる量が増加したりしたという報告があります。このようなことから、ミドリムシ飼料の健康促進効果にも注目が集まっています。
ミドリムシを活用した事業を行なっているユーグレナ社では、ブランド地鶏「比内地鶏」をミドリムシ飼料で育てる研究を2015年に開始し、ミドリムシ飼料を使って育てた鶏について、「脂の色味が変化する」、「うま味に関与する成分が向上する」などの結果が得られました。2018年にはミドリムシ飼料を食べて育った地鶏ブランド「み鶏」を開発し、レストランでも使用されました。
また、2016年にはユーグレナとJA全農飼料畜産中央研究所がミドリムシの飼料活用に向けた、共同研究契約を締結しました。この契約では、ミドリムシ燃料の生産で出る脱脂ミドリムシの活用を目指しています。
2017年には、ユーグレナと国立大学法人帯広畜産大学、生命・食料科学研究部門・西田武弘准教授が共同で行った研究において、反芻家畜(ヒツジ)に与える飼料の一部をミドリムシの粉末で代替することにより、ヒツジからのメタン排出量が減少する効果が確認されました。
また、2017年に行われた、ユーグレナとヒガシマルとの共同研究では、ミドリムシをクルマエビに与えることによって、肉質が改善することを示唆する結果が得られたとしてます。
このように、ミドリムシ飼料は本格的な実用化に向けて、研究・開発が行われています。