<2014.10.3.チーム170236制作>

ひだるがみ 【ヒダル神

別 名 ダル、ひだり神
出没地 十津川村、東吉野村
容 姿  山には、その昔飢えて死んだ者が亡霊になっていて、これが人にとりつく。ダルに憑かれると、冷たい汗が出て体が氷のようになり、ちょっと休んだら寝込んでしまう。(※1)
出没方法 ○道を歩いていたら冷や汗が出てきて、目の前が真っ暗になって、水が飲みたくなって、谷の水を伏して飲んでいたら、そのまま死んでしまう。(※2)
○腹が減って腹が減って、どうしようもなく、それを辛抱していると、汗が出て動けなくなる。お粥でも一杯すするると、すっとする。(※2)
○山の弁当は、一口くらいご飯残しておく。ひだる神が憑いたら、これを食べる。
○掌に「米」という字を書いて水で飲むと治る。また、飯を一口口に入れて、それを呑み込まず吐き出し、二口目から呑めば治る。(※1)
事 例  鷲家の方から少し行くと、佐倉峠がある。ここにひだる神が祀ってある。昔、腹が減ったら、ヒダル神がとり憑いたので、それから守ってもらうために、ひだる地蔵という地蔵さん祀った。この辺では、腹が減ったことを「ひだるい」と言う。掌に米を書いて、飲みこんだらおなかが大きくなるとも言われている。(※2)
アクセス
東吉野村佐倉峠(外部のページへ)
原風景
佐倉峠ひだる地蔵尊 <2014.11.15.チーム170236撮影>
昔、険しい佐倉峠を越えて帰る里人が、寒さと空腹のためひだる神にあって亡くなった。その後、佐倉峠を越える人々がひだる神につかれないようお祀りしたのが、この地蔵さんであると伝わる。(※3)
考 察 【性格・生まれてきた背景】
 突然の激しい空腹に、冷や汗が出て、その場から動けなくなるというような症状を経験したことはあるでしょうか。こうしたことは、山登りなどをしていて経験したという人も少なくないようです。昔の紀伊山地では、村から村へつながる道は、山深い谷や尾根を通り、その間、茶店や民家もそうそうあるわけではなく、飲み水の補給さえままならなかったかもしれません。そうした時に訪れる体調の不良、原因不明の空腹感など、まさに、旅は命がけだったわけですね。
【実体・モデル】
 医学が今ほど発達していない時代、病気を祈祷によって治してもらうということもよくあったようです。そこには、何かがとりついているという考えがもとになっている場合もあります。ひだるい(とてもつない空腹)思いをしたときは、飢えて死んだ人の亡霊がとりついたと考えたのかもしれません。今でこそ日本では、飢えて亡くなるという話を聞きませんが、江戸時代は、飢饉も多く飢えが身近にあった時代です。
【現代人との係わり・存在感】
 東吉野村鷲家から宇陀市菟田野に通じる国道166号線の境界上に佐倉峠があり、そこにひだる地蔵尊が祀られています。今では、ひだるい思いをしてここを通行する人はいないでしょうから、交通安全が主な願いに代わっているようです。実際に訪れてみると、今でも、地元の人たちによって大切に祀られていることがよくわかりました。
参考文献 ※1)奈良県教育委員会事務局文化財課『十津川村史』(S36.5.20.十津川村役場)
※2)竹原威滋・丸山顯コ編『東吉野の民話』(H4.12.10.東吉野村教育委員会)
※3)東吉野村教育委員会『東吉野郷土誌』(S47.3.1.)