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遊びの本質を見つめる〜ハードとソフト〜

私達は初め、“おもちゃのデザインの重要性”をテーマにサイトを作り始めました。そのきっかけとなったのは、木製知育玩具のネフ社を中心に紹介する一冊の本を見た事です。そこに紹介されているおもちゃからは、美しいデザインと色使い、長く使えるクオリティ、そこから広がる遊びの可能性のレベルが高い事に感激しました。それに比べて今の日本のおもちゃは、子供達のことを考えて作られた物は少なく、企業の利益が優先してしまっている様に思います。テレビ番組などのキャラクターものは“いかに子供の食い付きがいいか”といった傾向にある様に感じます。また近年、子供に関した事件が相次ぎ、これらの問題意識からも、本当に良いおもちゃとは何かを考え、子供にとって心を豊かに育むおもちゃを与える事をすすめようと思っていました。

しかし、ヨーロッパの木製玩具を見に出かけた先で、『地球はこどもの遊び場だ』(世界文化社)という1冊の写真集と出会い衝撃を受けたのです。その内容は、フォトジャーナリストの中西あゆみさんという方が世界30ヶ国を飛び回り、子供達の遊んでいる姿や表情を紹介したものです。私達がはっとさせられたのは、遊び盛りの少女が生活のためにゴミ山を彷徨っている写真や、おもちゃなど使わなくても活きいきと遊び続ける子供達の写真などです。どんなに貧しくても、今ある環境で精一杯“工夫”して、とても楽しそうに遊んでいる、自分達で遊びを創りだしている。これが遊びのあるべき姿かなと思ったのです。単に良いおもちゃを紹介しようとした私達の考えの浅さを痛感しました。そして今の日本の子供達に本当に必要なのは、良質のおもちゃや大人に保護された遊び場よりも、遊びを創り出す力なのではないかと思ったのです。

子供達を取り巻く事件や諸問題の解決策として大人がやっていることは、ほとんどがおもちゃをはじめとした“物”の開発や、警備員や監視カメラの設置といった環境の整備などです。こういったハードの部分ばかりを改善しても、事件を防ぐ事にはなるかも知れませんが、決して問題の解決には至りません。やはり、大切なのはソフトの部分。いかに、子供達自身が変われるかだと思うのです。
『河童が覗いたヨーロッパ』(著:妹尾河童/新潮文庫)という本の一節に、私達のこの考えに似た内容があります。妹尾さんがイタリアのミラノのドゥオモに行った時、屋上から飛び下り自殺があった。このドゥオモは自殺の名所にも関わらず、屋上に柵を取り付けていないそうです。その事に疑問を抱いた妹尾さんが神父に話を聞いたところ「柵を取り付ける事で、多くの人から美しいものを見る喜びを奪う事になる。教会が本当にすべき事は、自殺と言う間違った考えを持つ人達に対し、もっと神の教えを説く事なのだ」と、言われたそうです。

今の日本の多くの子供達は過剰に取り付けられた“整備済みの柵”の内側で埋もれてしまっているようです。子供達が遊びを創り出す余地もないような環境を大人が子供のためだといって先に与えてしまう。そして学力が下がれば、勉強させるどころか内容を優しくする事で解決しようとする。大人の目には、ハードの欠点しか見えないのでしょうか。それとも根本的な改善に踏み切る勇気がないのでしょうか。

私達の世代は、ちょうど大人と子供の両方の視点から見ることができます。物の本質を見つめ、何か問題のある時はハードに片寄らずソフトの両面から解決していくべきだと気が付く事ができると思います。それが、出口の無い迷路を彷徨っている日本の諸問題を引き継いでいく、私達おとなこどもの役目なのだと思います。