日本の宇宙開発の深い理解を目指す
おおすみ
「君は日本初の人工衛星の名前を知っているかな?」 |
「うーん……わからないですが、たぶん『なすび』じゃないですか」 |
「そんな衛星はないじゃろ!!正解は『おおすみ』じゃ」 |
「おおすみ? 不思議な名前ですね」 |
「この名前は、この衛星が打ち上げられたロケット発射場があった 鹿児島県大隅半島に由来しておるのじゃ」 |
日本初の衛星!
「日本初の衛星と言いましたね。打ち上げられたのはいつですか?」 |
「1970年2月11日じゃ。現在のJAXAの前身の一つである 東京大学宇宙航空研究所が打ち上げておる」 |
「結構古いんですね」 |
「そうじゃ。この打ち上げによって、 日本はソ連、アメリカ、フランスに次ぐ 世界4番目の人工衛星打ち上げ国になったのじゃ」 |
「それでも4番目なんですね……」 |
「そう残念がることはない。日本の『おおすみ』にはひとつ特徴がある。 それは『純粋に民間のみで研究を行い、非軍事目的の開発だった』 ということじゃ」 |
「つまり……?」 |
「他国の人工衛星打ち上げは、弾道ミサイルという軍事目的での 開発に付随するものだったのじゃ。 例えば、人類が初めて月に到達したアポロ計画も アメリカ対ソ連の冷戦中に計画されたものだったように、宇宙開発とは 軍事的要素を少なからず含むことが多いのじゃ」 |
「私には難しい政治の話ですけど、とにかく日本の『おおすみ』は平和的 だった、ってことですね!」 |
「まあ、そんなところでいいじゃろう。 純粋な科学的興味だけで宇宙開発ができればいいのじゃが…… やはり、大人の世界というのは難しいのう」 |
「博士も大人じゃん……」 |
偉大なる一歩
「ところでこのおおすみの目的は一体何だったんですか?」 |
「なにしろ、一番最初の人工衛星じゃ。 現代の高性能な各種衛星のように、天文観測や気象観測を 行ったわけではない。 搭載機器といったら加速度計、温度計、簡単な電波送信機だけじゃ。 あくまで『実際に衛星を打ち上げることはできるか』という技術試験に 本来の目的があったからの」 |
「なるほど……」 |
「不満げな顔じゃな。 しかし忘れてはいかんぞ。この小さな、全長1mの衛星によって 我が国日本の無人宇宙探査の歴史は歩み始めたのじゃ。 その証拠にこの写真を見てみい」 |
(c)JAXA
「わっ、すごい人の数ですね! みんな日の丸の旗を持って、なんだか嬉しそうです」 |
「おおすみの打ち上げに成功したと聞いて、喜ぶ人々を捉えた 画像じゃ。 はやぶさが地球に帰還した時も日本中の多くの人が 喜んでいたじゃろう? 時代が変わっても多くの人々が宇宙開発に興味や関心を 持っているのじゃ。 そんな当たり前のことの始まりもこの『おおすみ』だったのじゃ」 |
「つまり、私が宇宙開発に興味を持ったのも 元々はおおすみのおかげ……?」 |
「そういうことじゃな。まさに日本の宇宙開発史の偉大なる一歩じゃ」 |
「じゃあやっぱり私、おおすみに感謝しないと。ありがとう、おおすみ」 |
「そんなおおすみは実は打ち上げ後33年間宇宙空間に残っていたんじゃ。」 |
「えっすごい! じゃあもしかして今もまだ空に……?」 |
「それなら良かったんじゃがな。 2003年8月2日午前5時45分に北緯北緯30.3度、東経25.0度の位置 具体的にいえば北アフリカ、エジプトとリビアの国境付近で大気圏に 再突入して燃え尽きてしまったのじゃ。残念じゃのう」 |
「偉大なる先人はもういなくなってしまったんですね」 |
「しかしおおすみが踏み出した一歩は今でも確実に受け継がれているぞ」 |
「感動ですね。なんだか泣けてきました」 |
「最後におおすみの本体の画像を見せよう」 |
(c)JAXA
「思ったよりもこじんまりです」 |
「この小さなボディに夢や希望が詰まっていたと考えれば感慨もひとしおじゃ」 |