【継続が知識と技術の伝承につながる】

「『はやぶさ』の7年間の長旅を川口教授は常に見守っていたわけですが、先生にとって「はやぶさ」はどのような存在でしたか?

『はやぶさ』は子供のような存在でした。
確かに探査機は、基本的にはプログラムが組み込まれた機械です。しかしこのプログラムは、頻繁に書き換えられていきます。この書き換えというのは、つまり、探査機に新しいルールを教えることです。これは、子供をしつけ、育て上げるのと本当に同じ感覚です。
地球から3億km以上離れた小惑星イトカワでも円滑に航行できるように、『はやぶさ』には自律航行の機能をもたせました。打ち上げ直後は、地上からの運用で100%制御されていた『はやぶさ』が、ルールを書き込むにしたがって色々なことを学習し、自分で判断して動くようになるのです。徐々に新しいことを習得し、地上の手を離れていく『はやぶさ』の姿は、まるで子供の成長のようでした。
育て上げた子供が、教えたことを健気に一生懸命やってくれる、という感覚でしたね。 」

『はやぶさ』で得たことを今後どのように発展させていきたいですか?

「まずは、本格的なサンプルリターン調査を続けることです。
これを実力に変えていくことは、世界に先行して技術を定着させる大事な過程です。『はやぶさ』で飛行した実績があるからこそ、現在開発中の『はやぶさ2』でぜひ実現したいと思っています。

また、『はやぶさ』の本体は、大気圏に再突入して燃え尽きましたが、今度はそれを生き残らせ、太陽と地球のラグランジュ点(太陽と地球の間の引力が均衡している点)に係留したいと思っています。いつか、この場所に『深宇宙港』という太陽系航路の母港を建設したいと思っていますので、それに向けた飛行実証でもあります。
無謀なミッションだという印象もあるでしょうが、まさに『はやぶさ』こそが、そのチャレンジングなミッションだったのです。数十年先の人々が『はやぶさ2』を回収できること、そんな時代が来ることが願いです」

「次は『はやぶさ』も無事に生き残れるんですね! よかったです!
それにしても『深宇宙港』建設の計画や『はやぶさ2』のようなミッションは、得られるものも大きい分、同時にリスクもあると思います」

「確かに『はやぶさ』のような前代未聞のミッションはリスクを必ず伴います。しかし、リスクがあろうとも新しい技術を開発して、その技術を利用した宇宙探査を継続していくことが大切です。
たしかに新しいプロジェクトは、実際に成果を得るまでに多くの時間をかけますが、それを理由に目先のことだけを考えた政策に投じては駄目です。成果が出るまで時間がかかったとしても、そのプロジェクトを継続することで、知識や技術が伝承され、成果が出るようにもなるのです。このことが国民に自信と希望をあたえ、将来に明るい展望をもたらす力となると思います。」

「失敗を恐れない挑戦こそが、新たな希望につながっていく……その通りだと思います。
実際に挑戦し、成し遂げた川口さんだからこそ言える言葉ですね!」
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