Ventri
胃
胃は食道と十二指腸を結ぶ食物の通り道である。みぞおちの直下に仕置する中空、袋状の器官で、色は橙色。その外形は、アルファベットのJの字を、太め寸づまりにしたものを想像してもらえばいい。左上からまっすぐ下におりてきて、右やや上に彎曲(わんきょく)する。
周囲との位置関係は、Jの字の内側(左側)が肝臓の下面 と、Jの字の外側は脾臓(ひぞう)と接触するという位 置だ。ただ、この形や位置関係は固定的なものではなく、いろいろとバリエーションがあるのである。ヒトが立ち上がれば、ふつう胃の最下部はへそ・骨盤の高さまで下がる。しかし、人によっては骨盤腔まで下垂している場合(長いJというイメージ)や、その逆でほとんど横向きのまま、下弦の月のような形の人もいる。人それぞれ、いろいろな形の胃があるということだ。これら胃の形の違いから、機能的にいい悪いということはない。以前、長いJの字の胃、いわゆる胃下垂が病気のようにいわれた時期があるが、現在では病的な意味はないことで医学界の見解は一致している。ここまでは、胃の中に食べ物が入った状態での話である。空腹のとき、胃は前壁と後壁がぺしゃんこにくっつき、平べったい状態になっている。
胃は四つの部位−噴門(ふんもん)・胃体・幽門部・幽門に分けられる。
まずはJの字の頭にあたる噴門。ここは胃の上方入り口、食道を通 ってきた食べ物を受け入れるところになる。来るものは拒まず、とりあえず何でも胃の中に入れてしまう。といっても噴門にも限度があり、限界を超えるとマロリー・ワイス症候群になってしまう。酒を飲み過ぎ、何度も繰り返し吐いてるうち、いきなり新鮮な血を吐くという病気である。胃潰瘍とは違う。潰瘍の場合、いったん胃腸にたまった血液を吐くことが多いから、吐物の色は赤黒い。一方、マロリー・ワイス症候群の場合は真っ赤な吐血、けっこう凄惨なイメージである。内容物を逆流させようと、胃に中の圧力が上がっているにもかかわらず、食道下部の筋肉はいっこうに緩む様子がない。それで、行きどころのなくなった圧力が、食道と胃の境目、つまり噴門の粘膜を裂いてしまうのである。いわゆる、「イッキ飲み」で、この状態になることが多いといわれている。また、頻度は少ないが、この噴門の付近にガンができるとなかなかやっかいである。場所的に手術をしにくく、転移もしやすい。当然、死亡率も高い。
噴門につづき、下におりていくJの字の縦棒部分が胃体で、丸まった部分が幽門部である。このふたつで、いわゆる胃のふくらみの大部分を占める。そして、Jの字の終点は幽門、十二指腸への入口である。