錬 金 術 の 歴 史  第二講


2−2 アレクサンドリアからヨーロッパまで
 少し話は変わるが、まずは錬金術の語源について述べたい。
 錬金術、すなわち Alchmy の Al はアラビアの定冠詞と、金属変容を意味する chemy から成り立ち、アラビア語の el-kimya に由来する。
 この chemy は化学すなわち Chemistry の関連語で、ここからも錬金術と化学が近しいものと分かる。また、 khem (ケム)は「黒き土地」という意味で、古代においてそれはエジプトを指す。ちなみに、エジプト語で khem とはナイル川のもたらす豊穣の黒土の事。すなわち、語源から考えるに、錬金術とはエジプトからアラビアに伝えられた技術と言うことが分かる。

 錬金術はアレクサンドリアから一度アラビアを経由してヨーロッパに伝わり、現在の錬金術の体系が作られた。錬金術を意味する Alchemy は上記の通り、その過程で名付けられたものと推測できる。その他にも錬金術関連の用語にはアラビア語からラテン語に訳したものが多く残されており、アルコールや、アランピック(蒸留装置)はそれらの内の一つである。

 三世紀から五世紀にかけてのアレクサンドリアの時代には錬金術は哲学的側面が発達した。何故なら当時邪教への弾圧が強まり、大掛りな実験など表立った活動ができなくなったためである。とは言え、この頃にキリスト教、ユダヤ教、エジプト神話等の哲学が合わさりフリーメーソン思想の基礎となったので、ある意味では現在の錬金術には必要なことであった。
 また、アレクサンドリアでの技術的な発展には女性が非常に大きな貢献をした。女性錬金術師は自宅の台所で、台所に普通にある調理器具を用いて多くの実験を行ったとされる。例えば、現在ではどこの家庭にもあるであろうフライパンだが、この底の薄い鍋を指す「パン」という言葉はアラビア人女性錬金術師マリアが使っていた実験器具が起源という説もある。

 アレクサンドリアから錬金術の伝わったアラビアでは錬金術以外の学問も非常に発展しており、図書館や学校もかなりの数が建てられた。その知識を得るために地中海近隣の各国から学者たちがやって来て、彼らの触れた知識、技術の中には当然錬金術が含まれていた。そして今度は現在のイタリアにあるシチリアを通じて、これらの情報がヨーロッパに流れ込んだ。
 その様な東洋文化への興味をヨーロッパに起こし、錬金術研究の切欠となったものは十字軍である。十字軍とは十一世紀にローマ教皇が召集したフランス人騎士達で構成された軍団で、大義名分としてはキリスト教によるエルサレム奪回、実質としては東ローマ帝国の救援を目的としていたものだが、その際彼らは東側の物品を多く持ち帰った。十字軍は東西交流の礎を築いたのである。

 次ページではヨーロッパでの錬金術の発達について紹介する。
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