岩手県北バス
岩手県の岩手県北バスでは、都市間急行バス(盛岡―宮古)、一般路線バス(宮古―重茂(おもえ)半島)で貨客混載の取り組みを行っています。
日本初の本格的なバスと貨物の貨客混載の取り組みです。
本記事では、貨客混載の取り組みと、岩手県北バス様にメールにて取材を行った結果を掲載させていただきます。また、岩手県北バス様に提供いただきましたお写真も当記事で掲載しています(今回、実地調査は行っていません)。
貨客混載の取り組み
2015年、岩手県北バスとヤマト運輸がコラボし貨客混載バスの運行が始まりました。
日本で最初の本格的な貨客混載の取り組みであり、近年の取り組みの基礎、モデルケースとなっています。
岩手県北バスとヤマト運輸の貨客混載は、2路線、2車両で行われています。以下に路線別に紹介します。
ヒトものバス(盛岡―宮古)
まず、盛岡から宮古の輸送を、都市間急行バス(106急行)で行っています。都市間を結ぶ、多数の便が走る高需要の路線のため、いわゆるローカル路線ではないことが特徴です。
盛岡の営業所と宮古の営業所を結ぶ、ヤマト運輸の拠点間輸送としての役割を果たしています。
車両はハイデッカータイプの車両を改装したもので、車両の後部に専用の貨物室が備え付けられています。車体には「ヒトものバス」と銘打ったラッピングがなされています。客室を改造しているため、定員は減ってしまいます。故に、利用客が少ない時間帯を精査して運行しているそうです。また繁忙期に積み残しが出た場合には、続行便を運行して対応しているそうです。
一日一便での運行です。車両検査時は運休し、バスは代車での運行、宅急便(貨物)はヤマト運輸のトラックで運送しているそうです。
宅急便の冷蔵便、いわゆる「クール便」の輸送は現在は実施していないそうですが、輸送用のコンテナをクール便対応にすれば実施可能だそうです。
ヒトものバスの外観 (岩手県北バス様提供) |
貨物室を開けた様子 (岩手県北バス様提供) |
貨物室の内部 (岩手県北バス様提供) |
重茂路線バス(宮古―重茂半島)
その後、重茂半島ゆきの荷物を、宮古から重茂半島まで一般路線バスで輸送します。便数が少ないローカル路線で、輸送力には余裕があります。
重茂半島に到着後、ヤマト運輸のドライバーに荷物の受け渡しを行います。これにより、重茂半島担当のヤマト運輸のドライバーが宮古まで午後配達の荷物を取りに帰る必要がなくなり、効率的な輸送が可能となります。
それゆえ、拠点間輸送ではなく、地域輸送的な役割を果たしているといえます。
重茂路線バスの車両外観 (岩手県北バス様提供) |
貨物スペース (岩手県北バス様提供) |
さらなる貨客混載の取り組み
2018年から、前述した貨客混載に加えて、夏季限定で「宮古産夏いちごの貨客混載」を開始しました。
宮古市で採れた新鮮ないちごを迅速に盛岡市に輸送する手段として、都市間急行バスを利用するという取り組みです。いちごを輸送するためにわざわざ車を手配する必要がなく、バスに載せることで、効率的で安価な輸送が可能です。また、バス会社にとっても、少量の貨物であれば床下のトランクルームで対応でき、新たな設備投資が不要で運賃収入を確保できます。
今後も、荷主のニーズがあれば積極的に貨客混載を検討する方向で進めているそうです。
いちごの積み降ろし (岩手県北バス様提供) |
宮古産夏いちご (岩手県北バス様提供) |
考察
岩手県北バスとヤマト運輸の貨客混載は、以下の事項から、モデルケースとして参考にすべき、特筆すべき取り組みと言えます。
一点目は、需要が高い「都市間急行バス」で貨客混載を実施しているということです。専用の貨物室を設置し、貨客混載を行うことによって、高い輸送力を有したまとまった輸送が可能となりました。また、大量の荷物を一度で運ぶことで、環境負荷の大きな低減につながります。故に、他の幹線バスや高速バスでも、積極的に実施を検討すべきです。内部補助的観点でも、黒字路線の収益の最大化をしておくことは重要であるといえます。
しかし、幹線バスや高速バスで行う、輸送力の大きな貨客混載は、あまり広まっていません。故に、各事業者で、積極的に導入を検討すべきです。
二点目は、都市間急行バスで輸送しただけにとどまらず、ローカル路線バスでも貨客混載を行っていることです。ローカル路線の維持につながる貨客混載は、すでに全国で広がり続けていて、モデルケースとして成功しています。近年のように、広がり続けることが理想的です。
三点目は、少量の貨客混載も実施しているということです。ヤマト運輸は関連していませんが、事業者(バス会社)と荷主の間での利害が一致することで、双方にとって利益のある輸送を行うことができます。実施する余地、機会があれば積極的に行うべき施策であるといえます。
感想
今回、岩手県北バス様にお話を伺い、貨客混載への積極的な姿勢に感銘を受けました。
岩手県北バスのような、貨客混載や新たな取り組みに積極的なバス会社が増えると地方交通の改善に一歩ずつ進んでいくのだろうな、と感じました。